この記事でわかること
D2Cをわかりやすく解説する本を待ち望んでいました。
インターネット上にもD2Cに関する情報が散見されるようになりましたが、それでもバラバラな印象は拭えず、「D2Cって何?」と聞かれた時に「これを読めばわかるよ」と言えるような良書を待っていたのです。
そして待ち望んでいた本を手にとることができました。
出典:『D2C 「世界観」と「ストーリーテリング」で顧客を巻き込むブランド戦略』
この本はデザイン・イノベーション・ファーム『Takram』のディレクター・ビジネスデザイナーである佐々木康裕 氏の著書で、D2Cをわかりやすく、かつ非常に魅力的に伝えています。
今回はただ本の紹介で終わっても面白くないので、D2C事業に携わる人が本書から得られる気づきを、厳選して5つにまとめました。それでは1つずつ見ていきましょう。
D2Cが作る「コト付きのモノ」という新たな流れ
D2Cは「モノからコト」から「コト付きのモノ」へという新たな流れを作っている。
スーツケースのD2CブランドであるAwayは、「旅」に絡めてポップアップのホテルを開き、Casperは「睡眠」に絡めて、25ドルで45分間の仮眠を取ることができるThe Dreameryというデザイン性の高い睡眠スポットをニューヨークの中心部で展開している。(P.32)
サクセスボードでも「D2Cは単純なモノ売りのビジネスではない」と、何度もお伝えしてきましたが、「コト付きのモノ」という表現は初めて目にしました。
AwayとCasperはこの文脈で語られることが多いD2Cブランドで、それぞれ「旅」とウェルビーイング文脈における「睡眠」の領域で良いプロダクト・体験を提供するブランドですが、本書で語られる通り単なる「モノ売り」ではありません。
Awayはスーツケース、Casperはマットレスとそれぞれメインプロダクトはあるものの、プロダクトを売る以上に、そのプロダクトに付随する体験(コト)で訴求しています。(これはInstagramのタイムラインを見れば一目瞭然です。)
しかし忘れてはならないのは、AwayもCasperも「プロダクトを売る」ことを捨てたわけではないということです。D2Cブランドはあくまで「プロダクトを売る」ことでビジネスを成長させています。
モノからコトへと世界観を拡張させつつ、「プロダクトを売る」という軸足をブラさない姿勢は、まさに「モノからコト」ではなく「コト付きのモノ」という表現がしっくりきます。
Awayの世界観は、まさに「重層的」
デジタルの可能性を極限まで活用した「コミュニケーションチャネルの多様化」と「世界観の重層性」の2つを兼ね備えていることが、D2Cブランドの大きな特徴となる。(P.45)
コミュニケーションチャネルの多様化は、ホテルやオリジナル雑誌『HERE』を作っているAwayを分析すると見えてきます。
オンライン上のチャネルはInstagramを中心に活用した上で、オフラインでもタッチポイントを作れるようチャネルを多様化しています。
出典:HERE「Issue 02 of Here Magazine Is... Here!」
しかし、ここまでの理解で終わると「世界観の重層性」という詩的な表現まで思考がたどり着きません。
そのままAwayを例にとると、旅を様々な視点で紐解き、それを多様なコミュニケーションチャネルで展開することで、旅が持つ様々な文脈をバリエーションに富んだ表現で展開することができています。
その表現とは時にInstagramのコンテンツであり、時に雑誌の見開きページであり、ホテルのエントランスや部屋そのもののことです。
それらが織り成すAwayの世界観は、まさに「重層的」だと言えます。
ちなみにコミュニケーションチャネルをここまで多様にしても、ブランドの世界観やメッセージがブレないのは、Awayが確かなブランドDNAを持っているからに他なりません。
参考:「ブランドDNAとVIとは?D2Cのブランディングに必要な4つのこと」
誰かに語りたくなるプロダクトである
「プロダクトがコンテンツ化する」とは、「プロダクトがストーリーをまとう」ということだ。ストーリーをまとったプロダクトは、意味レベルの価値を持つ。そして、意味レベルの価値を持ったプロダクトは、機能レベルでの比較などされない。他のプロダクトとまったく違う価値を持ち、マーケットの中で、ユニークで絶対的なポジションを獲得することができる。(P.73)
「プロダクトがコンテンツ化する」と言われても、多くの人が首を傾げると思います。
ここでの「コンテンツ」とは、メディアにおけるコンテンツ、つまりメディア上で展開されるテキスト・動画・音声などの情報のことを指す言葉です。しかし、そのままの意味で考えると正しくないので、著者は「コンテンツ化」と言っています。
「プロダクトがコンテンツ化する」とは、「プロダクトがストーリーをまとう」ことだと補足がありますが、手に取った人がInstagramでシェアしたくなったり、誰かに話したくなったりするとイメージすると、「ストーリーをまとう」の意味も朧げながら理解できると思います。
つまりD2Cブランドのプロダクトは、「誰かに語りたくなるプロダクトである」という点がキーポイントです。
モノが溢れる現代において、機能面での差別化は難しい現状があります。しかし、ブランドが構築した世界観をメディアと捉え、プロダクトをコンテンツだと捉えると、機能面で他のプロダクトと比較するのはあまり意味をなさないと言えます。
本書はこの点を海外事例でもご紹介したGlossierを例に挙げて、非常に簡潔にわかりやすくまとめています。
参考:「5つのD2C海外事例。若い世代が求める究極にユニークな顧客体験とは?」
顧客が友達や同僚のような存在になる
顧客は今や製品についてPRし、その商品のよさをコミュニケーションしていくマーケターであり、フィードバックしながら具体的な製品アイディアを考える製品開発担当、R&D担当でもある。ブランドと顧客は、作って売るブランドとそれを受け取る顧客という「縦の関係」から、友達や同僚のような「横の関係」に移行しつつあるのだ。(P.113)
D2Cブランドは顧客との関係性においても、従来とは一線を画しています。
ここ数年で国内でも「共創」といったワードがマーケティング界隈で聞かれるようになりましたが、本書で例として挙げられたGlossierは顧客をSlackチャンネルに招待して会話をすることで、他では得られない濃いフィードバックを受けて、顧客の声をダイレクトに商品開発に活かしています。
おそらく(Slackに招待されていないので確かではありませんが)、チャンネルで交わされるコミュニケーションはどちらが顧客だか一見わからないくらい、フランクかつフレンドリーだと思います。
顧客が友達や同僚のような存在になり、自ら進んでアイディアを出す環境は、D2Cブランドにとってまさに理想的ではないでしょうか。
D2Cはデータ×ブランディングのキメラ
ここまで本書の引用を交えて4つの気づきをお伝えしましたが、これが最後の気づきです。
本書を読む前から感じていたことですが、改めてD2Cが一言で言い表せない理由に気づきました。
単にDirect to Consumerであることから「中間業者の中抜きをしない」や、「顧客とダイレクトにとるコミュニケーション」や、「卸ではなく直接販売する」ことや、データドリブンなマーケティングや、ハイクオリティで一貫性が高いブランディングなど、D2Cを語る視点は多く、そしてどれもが外せない要素となっています。
つまり、「D2C」は多重構造的な変化が織り重なって起きている事象なのです。これを一言で言い表すとなると無理があります。
著者はこのことを理解した上で、冒頭で「D2Cはデータ×ブランディングのキメラ」という一文で表現しています。
お気づきの方も多いと思いますが、著者の佐々木康裕 氏は言葉のチョイスも巧みで、本書はD2Cを理解するのと同時に単純に読み物としても面白いのでオススメです。
「D2Cはデータ×ブランディングのキメラ」の真意をぜひ探してみてください。
本稿で気になった方は、ぜひ『D2C 「世界観」と「テクノロジー」で勝つブランド戦略』を手にとって、D2Cの魅力に触れてみることをオススメします。
【最後に】
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※2:ecforce導入クライアント38社の1年間の平均データ / 集計期間 2021年7月と2022年7月の対比
※3:事業撤退を除いたデータ / 集計期間 2022年3月~2022年8月