この記事でわかること
※この記事は 2026年1月21日時点の情報をもとに執筆しています。
欠品による販売機会の損失や、過剰在庫による無駄なコストを解決するには、適正在庫を維持することが大切です。
本記事では、適正在庫の基礎知識から、現場で実践できる適正在庫を算出するための計算方法、数値を維持する運用のコツ、便利な自動計算ツールについて解説します。
適正在庫とは?

「適正在庫」とは、企業の利益を最大化させるための戦略的な在庫量のことです。事業を進めるためには、売上の維持とコストの削減の両立が求められます。
ここでは、適正在庫の概要と、その数値の算出に必要な、「安全在庫」や「サイクル在庫」との関係性についても整理していきましょう。
欠品や過剰在庫を防げる最適な在庫数のこと
適正在庫とは、ビジネスを効率的に進めるために「過不足のない状態」に在庫を保っておくことです。
在庫は多すぎても少なすぎても経営状態に悪影響を与える可能性があります。在庫の状態によって伴うリスクは以下の通りです。
| 状態 | リスク |
|---|---|
| 在庫が多い場合 |
|
| 在庫が少ない場合 |
|
これらのリスクを避けるためには、在庫を適正に保つことが非常に重要です。適正在庫は、最小限のコストで、顧客の要求に100%応えられる状態を目指すための指標といえます。
適正在庫と安全在庫の違い
適正在庫と混同されやすい言葉の1つが、「安全在庫」です。
安全在庫とは、急に注文が増えるなど、予測不可能な需要の変動や供給トラブルに備えるために、最低限の在庫を備蓄しておくこと。つまり、欠品状態にならないためのお守りのようなものです。
もう1つ知っておくと良いのが、次の発注分が届くまでの間に、定期的に販売・消費される予定の在庫である「サイクル在庫」。適正在庫は、「安全在庫」に「サイクル在庫」を加えたものです。
適正在庫は、リスクを回避するための数値である「安全在庫」に、運用上の販売予定数を加えた戦略的な指標であると理解しておきましょう。
適正在庫の維持はなぜ重要?

適正在庫を維持することは、現場を整理するだけではなく、企業の経営基盤を支える重要な戦略といえます。在庫は「資産」である一方、管理の仕方を一歩誤ると、経営を圧迫する「負債」ともいえる側面も持ち合わせているためです。ここでは、適正在庫を維持することの4つのメリットを詳しく見ていきましょう。
資金繰りを改善できる
現金が形を変えたものが「在庫」です。そのため、在庫が全部売れるまでは手元の資金を他の用途に使うことはできません。余っている在庫がある場合は、その在庫を減らして適正量に調整すると、浮いた現金を新たに仕入れや設備投資、広告費などに回せ、キャッシュフローが健全化します。
また、利益が出ているのに現金が足りなくなる、「黒字倒産」のリスクも回避できるでしょう。
供給体制を安定させられる
適正在庫を維持することによって、顧客が必要な時に商品を供給できるため、企業の信頼に繋がります。また、あらかじめ適正在庫を算出しておけば、急に需要が増えた時などでも臨機応変に対処でき、安定的な供給を維持できるでしょう。
管理コストを削減できる
在庫を抱えていると、その管理に費用がかかってしまいます。そのため、適正在庫に調整することによって、在庫維持のためにかかる以下の費用を削減できるでしょう。
- 倉庫の賃料
- 光熱費
- 棚卸し作業などにかかる人件費
- 在庫にかける保険料 など
また、在庫が多く残った商品が劣化や型落ちしてしまうと、廃棄処分が必要になります。適正在庫を維持することは、このような直接的な損失も防げます。
売上の機会損失を防げる
顧客の「今すぐ欲しい」という要望に応えることも大切です。もし在庫が欠品していることによって売上の機会を失ってしまうと、「品揃えが悪い」と不満を抱かれる可能性があります。そして、その時の売上だけではなく、将来的なリピート購入の機会まで奪われかねません。
また、適正在庫を把握していれば、販売促進のキャンペーンなどを仕掛けられるといったメリットもあります。
適正在庫の計算方法4つ

適正在庫の基準は、取り扱う商品の特性や、企業の経営方針によって異なります。同じ計算式ではなく、自社の状況に合った方法を選んで算出することが重要です。ここでは、代表的な4つの計算方法について、具体的な計算式と活用シーンを解説します。
1.「安全在庫」と「サイクル在庫」を用いて計算する
適正在庫 = 安全在庫 + サイクル在庫
安全在庫とサイクル在庫を用いた計算式は、もっとも標準的で、現場での運用に取り入れやすいのが特徴です。サイクル在庫は一般的に、「(最大在庫量+最小在庫量)÷ 2」で算出します。
この計算式なら、「最低限必要な予備分」と「日常の販売分」の合算であるため、現場担当者が納得しやすく、在庫の役割を明確に区別できるでしょう。
EC運営の適切な在庫管理3つのポイントとは?安全在庫の計算式もご紹介します。
2.「需要数」から適正在庫を算出する
適正在庫 = 一定期間の需要予測数 + 安全在庫
過去の実績や将来の予測をもとに、一定期間に「どれだけ売れるか」をベースに算出する方法です。
例えば、今後1ヶ月で100個売れると予測した場合、安全在庫が20個であれば、適正在庫は120個と設定します。
重要なのは、季節やトレンド、広告やセールなどの予定を反映させた「需要予測」の精度です。単なる過去の平均値では、正確な適正在庫を算出できません。
この計算式は、市場の変化が激しい商品や、特定の時期に売上が集中する季節に関わる商材の管理に適しています。
3.「在庫回転率」と「在庫回転日数」を用いて計算する
在庫回転率とは、「1年」などあらかじめ設定した一定の期間で、在庫が何回入れ替わったかを示す指標のことです。数値が高いほど、効率よく商品が売れていることを表します。
在庫回転率を用いた計算式が以下です。
適正在庫(金額) = 出庫金額 ÷ 目標在庫回転率
「在庫がどれくらいのスピードで入れ替わっているか」という、経営効率の視点から逆算します。
もう1つが「在庫回転日数」を用いた計算式。在庫回転日数とは、在庫が入れ替わるのにかかる日数のことです。
適正在庫 = 1日当たりの出荷数 × 目標在庫回転日数
例えば、「在庫を常に20日分に保つ」と決めた場合、1日平均5個売れる商品なら「5個 × 20日 = 100個」が適正在庫となります。
これらの計算式は、財務的な視点で在庫管理をしたい時に便利で、キャッシュフローを重視したい経営に適した方法です。
4.「平均出荷量」と「発注・納品サイクル」から算出する
適正在庫 =(1日あたりの平均出荷量 ×(発注間隔 + リードタイム))+ 安全在庫
シンプルな計算方法で、「次の入荷までに必要な量」を算出できます。
例えば、1日10個売れる商品を、3日に1回発注して届くまでに2日かかる場合、次の商品が届くまでに最低50個必要。これに「安全在庫」を足したものが、その時点での適正在庫です。
発注のタイミングや、仕入れ先からの納期が数式に組み込まれているので、「何個注文すればいいか」の判断に直結します。
適正在庫を計算する際の注意点

前項の計算式に数値を当てはめれば、適正在庫は算出できますが、数値だけでは測れない要素があるのが事実です。計算結果を過信しすぎると、現場の状況とはかけ離れた、「使い物にならない数字」になる恐れがあります。
計算する際は、以下の3つのポイントに注意しましょう。
長期間の在庫数の変動をチェックする
適正在庫を算出する際は、できるだけ長期間のデータを参照することが重要です。直近1ヶ月分だけなど、短い期間のデータで計算してしまうと、季節性の商品や一時的に行われたキャンペーンなどの影響によって、通常時の適正量を正しく算出できません。
可能であれば複数年分のデータを比較し、需要が増える時期を考慮したうえで算出しましょう。長期的なスパンの数値を出すことで、より精度の高い数値を導き出せます。
会社全体での適正在庫の考え方をそろえる
適正在庫の基準をどこに置くかは、部署によって異なります。
例えば、営業部門の場合は、商品を必要としている顧客を待たせずに済むよう、在庫を多めに持とうと考える傾向にあります。一方、財務や経理部門は、資金を効率よく回そうと在庫を減らす方向で進めるでしょう。
このように、それぞれの部署によって異なる動きをすると、現場で混乱が生じかねません。そのため、会社全体で、「欠品許容率は◯%まで」「在庫回転率は◯回を目指す」といったKPIを設定して、適正在庫の定義をそろえておくことが大切です。
定期的に設定値を見直す
一度算出した適正在庫の数値は、その先もずっと適用されるものではありません。トレンドは日々移り変わり、また、競合商品や社会情勢の変化によって、商品の売れ行きが変動するためです。
今は在庫量が適正であったとしても、半年後には過剰になっていたり不足していたりする可能性があります。このような事態にならないよう、3ヶ月から半年ごとに再計算を行うことが重要です。
適正在庫を維持するには?

適正在庫は、一度算出して終わりにするのではなく、その数値を維持し続け、事業の状態に合わせて最適化し続けることが重要です。ここでは、適正在庫を維持するための4つの方法について解説します。
在庫を分析する
すべての商品をまったく同じ方法で管理するのは非効率です。まずは在庫を分析し、優先順位をつけましょう。分析の方法としては、「ABC分析」と「交叉比率の活用」が挙げられます。
ABC分析を行う
「ABC分析」とは、売上金額や出荷数の多い順に、商品を「A・B・C」の3ランクに分類する方法です。売上の多くを占めるAランク商品は毎日在庫をチェックし、一方で売上の低いCランク商品は管理を簡略化するなど、ランクに合わせてリソースのかけ方を変えることで、効率的に管理できるようになります。
交叉比率を活用する
「交叉比率」とは、在庫がどれくらい効率的に利益を生んでいるかを表す指標で、「利益率」と「在庫回転率」を掛け合わせて算出します。この数値を見ることで、その商品の在庫を維持する価値があるのかを客観的に判断できます。利益も回転も悪い商品は、在庫を絞ったり取り扱い終了を検討したりといった判断が必要です。
在庫補充する際の発注方法を再検討する
商品の特性に合わせて、発注のタイミングや量のルールを見直すことも大切です。以下の2つの方式から、商品に適したものを選びましょう。
| 発注方式 | 特徴 | 適した商品 |
|---|---|---|
| 定期発注方式 | ・毎週決まった曜日に、必要な分だけ発注する方法 ・需要の変動に合わせて量を細かく調整できる |
Aランク商品の管理 |
| 定量発注方式 | ・在庫が一定数を切ったら、追加で決まった数を発注する方法 ・発注作業をルーティンにできる |
B・Cランク商品の管理 |
適切に需要予測を行う
適正在庫の維持には、細かい需要予測が欠かせません。過去の売上実績だけでなく、季節による需要の変化やイベント、トレンド、競合他社の動きといった、「外的要因」にも目を向けましょう。
また、営業の現場の声にも耳を傾けることも重要です。顧客の検討状況や予兆を加味して実績とのズレを検証することで、精度を高められます。
リードタイムを短縮させる
発注してから納品されるまでの期間が短くなれば、それだけで持つべき在庫量を減らせます。入荷が早いほど、安全在庫やサイクル在庫を最小限に設定できるためです。
仕入れ先との連携を強めたり、発注フローをデジタル化して事務処理時間を削ったりすることで、在庫のリスクと管理の負荷を抑えられます。
適正在庫の管理におすすめのツール

適正在庫の算出や維持には、膨大なデータの集計と各方面からの分析が必要です。これらをExcelや手書きの帳簿を使って行うのは、工数がかかる他、入力ミスや属人化を招く可能性があるため、あまり現実的ではありません。そこでおすすめなのが、管理ツールの導入です。リアルタイムで在庫が把握できるうえに自動で計算できるので、精度の高い在庫管理が誰でも簡単に行えます。ここでは、在庫管理を支える主な3つのツールについて見ていきましょう。
ERP・MRP・WMSなどのシステム
企業の資産情報を一元管理する基幹システムや、現場の動きに特化したシステムを導入することで、在庫データの精度を高められます。
| システム | 特徴 |
|---|---|
| ERP(企業資源計画) | ・販売、購買、財務などの情報を一つのシステムで管理 ・会社全体で同じデータを共有できるため、部署同士のズレを防げる |
| MRP(資材所要量計画) | ・製造業において、「いつ・何を・どれだけ作るか」から逆算して、必要な原材料の量を算出 |
| WMS(倉庫管理システム) | ・入出庫や棚卸しといった、現場作業をデジタル化する ・リアルタイムで在庫数が更新されるため、適正在庫とのギャップに気づきやすい |
WMS(倉庫管理システム)とは?EC物流の在庫管理を効率化する選び方と導入メリット
BIツール(需要予測・在庫分析)
BIツールとは「ビジネス・インテリジェンス」のことで、膨大なデータの可視化と分析に特化したツールです。前項でも解説した、ABC分析や在庫回転率の推移などをグラフで確認できるようになります。
なかには、過去数年分の売上データから需要予測を自動で算出できる機能が付帯されているものもあり、数値に基づいて在庫戦略を立てられるのがメリットです。
IoT技術やAI
最新のテクノロジーを取り入れて在庫管理を自動化することも可能です。
| ツール | 特徴 |
|---|---|
| IoT | ・重量を検知するマット型のセンサーや、RFIDタグ(無線ICタグ)などを活用 ・商品の減り具合をセンサーが感知し、それに合わせて発注を行う構築も可能 |
| AI | ・天気予報やイベント情報、トレンドなど、さまざまな外部データをもとに、精度の高い需要予測が可能 |
適正在庫を管理するツールの選び方

在庫管理のツールは、簡易的なものから多機能な大規模システムまで、さまざまな種類があります。自社にとって最適なツールを選ぶためには、機能面だけでなく、現場の運用の仕方に適しているかどうかを見極めることが必要です。
ここでは、ツールを選ぶ際にチェックするべき4つのポイントを解説します。
業務内容に適しているか
まずは、自社の業種や取り扱い商品の特性とツールがマッチしているかを確認しましょう。製造業であれば、部品や原材料の管理、小売業であれば売れ行きを分析する機能が不可欠です。
また、消費期限がある食品を扱う場合は「先入れ先出し」の管理やロット管理をしなくてはなりません。欠品が多い、棚卸しに時間がかかるなどの、自社が抱えている課題を解決できる機能が備わっているかを重視して選びましょう。
カスタマイズができるか
ツールの機能が、自社ルールや業務フローに対応させられるかも重要なポイントです。導入しても、現場の運用に対応できなければ、結局エクセルでの補足作業が必要になり、二重管理を招きかねません。
デフォルトの設定範囲で対応できるのか、もしくは追加費用でカスタマイズできるのか、将来的な事業拡大も見据えて柔軟性を確認しておきましょう。
導入のために必要な設備があるか
ツールを動かすために必要な環境や周辺機器も確認しておきましょう。クラウド型の場合は、インターネット環境とパソコンがあれば導入可能です。しかし、現場でバーコード検知を行う場合は、専用のハンディ端末やラベルプリンター、Wi-Fi環境の整備などが必要です。
加えて、データ入力の手間を省きたければ、既存の販売管理システムや会計ソフトと連携できるかどうかもチェックしておく必要があります。
料金などが条件に適合しているか
導入時にかかる初期費用だけでなく、月額の利用料や保守費用といった、「ランニングコスト」を含めたトータルで判断しましょう。高額高性能ツールを導入しても、使いこなせなければ「宝の持ち腐れ」になってしまい、費用対効果が悪くなってしまいます。
逆に、安価なツールを選んで初期費用を抑えても、必要な機能が足りずに手作業が増えて人件費がかさむケースもあるでしょう。
ツールを導入することによって、どれくらいの時間や在庫コストを削減できるかという、「投資対効果」を試算したうえで、予算に見合うものを選定することがポイントです。
正しい計算方法で適正在庫を算出して、利益向上を目指そう

適正在庫の管理は、無駄なコストを削りながら売上を最大化させるためには非常に重要です。まずは自社の商材に合った計算式を使い、人の勘に頼らない「正しい目標値」を出すことから始めましょう。
また、手作業での限界がある場合は、ツールの導入を検討するのもひとつです。自社に最適な在庫バランスを維持し、安定した利益と企業の成長につなげましょう。
※2:ecforce導入クライアント38社の1年間の平均データ / 集計期間 2021年7月と2022年7月の対比
※3:事業撤退を除いたデータ / 集計期間 2022年3月~2022年8月