この記事でわかること
※この記事は 時点の情報をもとに執筆しています。
損益計算書(PL)は、事業がどのように利益を生み出すかを可視化するための数字の地図です。
特にEC/D2C事業では、広告投資や継続率といった要素が収益性に直結するため、PLを正しく設計・分析することが事業成功のカギを握ります。
PLは通常、事業計画書の中に組み込まれる形で作成されますが、その役割の重さゆえに、単独で理解しておく価値があります。
本記事では、EC/D2Cモデルの実例を交えながら、PLの基本構造と作成手順をわかりやすく解説します。
この記事を最後までご覧いただいた方のために、事業にすぐ使える実践テンプレートを配布させていただいております。ぜひご活用下さい。
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EC/D2Cにおける事業計画書
EC/D2C事業において、事業計画書は単なる資料ではなく、プロジェクトの全体像を共有するための共通言語です。
広告投資の回収や継続率の設計など、初期から複雑な構造を伴うECビジネスでは、定性的なビジョンとともに、定量的な根拠を示す文書として欠かせません。
市場や顧客の状況が絶えず変化する中で、チームの目線をそろえ、方向性を維持し続けるためにも、事業計画書はその都度の見直しや更新が求められます。
中でもPL(損益計算書)は、数ある構成要素の中でも最重要のパート。
数字に基づく収益性の判断や、黒字化までの道筋を描くうえで、EC/D2C特有のビジネス構造を正しく反映したPLの作成が必要です。
このあと詳しく、PLの基礎と作り方を事例付きで解説していきます。
損益計算書(PL)とは
事業を立ち上げるにあたって、損益計算書(PL)は収支構造の地図として非常に重要です。
EC/D2Cビジネスでは初期投資や広告コストが先行するため、利益構造の可視化が成功の鍵になります。
PLの定義と役割
「損益計算書(PL)」は、経営や会計に関わる企業担当者にとって避けて通れない基本テーマです。
PL(損益計算書)とは、企業の収益構造や費用の内訳、最終的な利益の状況を表す財務書類のひとつであり、ビジネスの健康診断書とも言える存在です。
とくにEC・D2C事業では、広告費や配送費などの経費構造が他業種と異なるため、PLの正しい読み解き方・作り方を理解しておくことが重要です。
初期費用が先行しやすいサブスクリプション型モデルや単品リピート通販では、売上の推移と経費のバランスを定量的に把握することが、継続的な黒字化へのカギとなります。
この記事では、PLについて基礎から解説しつつ、EC/D2Cモデルに即したPL作成の手順やポイントを実例つきで紹介していきます。
PLの5つの利益|基本構造とその意味
損益計算書(PL)は、「どれだけ売上があり、どれだけコストがかかり、どれだけ利益が残ったのか」を一目で把握できるフォーマットです。
特にD2CやECのように少額なケースが多く、高頻度取引が多いモデルでは、利益構造を細かく管理することが欠かせません。
PLには主に5つの利益が存在し、これらの関係性を把握することがビジネスの健全性を測る上での基本となります。
売上総利益:売上高 − 売上原価(仕入や配送費など)
営業利益:売上総利益 − 販売費および一般管理費(広告費・人件費など)
経常利益:営業利益 ± 営業外損益(受取利息、支払利息など)
税引前当期純利益:経常利益 ± 特別損益
当期純利益:税引前当期純利益 − 法人税など
この5つの利益の構造を理解することで、どのフェーズでコストが発生し、どの利益が改善余地を持つかを判断できるようになります。
特にEC/D2Cでは「売上総利益」や「営業利益」のインパクトが大きく、広告や配送費の見直しによる利益改善が直接反映されやすい点も押さえておきましょう。
EC/D2CにおけるPLの特徴
EC/D2Cモデルでは、広告や物流、定期販売といった独自のコスト構造があります。
これらは損益計算書(PL)にどう影響し、どのように見るべきかを解説します。
他業種との違い
EC/D2CのPLは、製造業やサービス業と比べて変動費の割合が高く、初期の広告投資が重くなりがちです。
たとえばD2Cでは、LTV(顧客生涯価値)とCPA(顧客獲得単価)のバランスがPL全体を左右します。
初回は赤字でもリピート購入で回収するモデルが一般的で、短期的な利益よりも中長期の回収構造が重視されます。
また、モール出店と自社ECでのコスト構造の違い(手数料や広告チャネル)もPLに直結します。
どのチャネルを採用するかによって、売上原価と販管費の内訳が変化することを理解しておくと、より現実的なPL設計が可能になります。
PLを作る前に準備すべきこと
損益計算書(PL)を作成する前には、数字の裏付けとなる実データや前提条件を整理しておく必要があります。
特にD2C事業では、広告投資や継続率、在庫コストなど事前に確認すべき指標が多岐にわたります。
自社の現状把握
- 自社の収支やリピート率などの現状
- 損益計算を元に黒字化する時期を見定める
- 広告費などの予算を概算し、広告会社を選定
- 制作会社の選定
これらのデータを集め、事業計画書に盛り込めるように分析しましょう。
顧客データと売上見込み
とくに重要なのが、既存顧客の属性や購買傾向を把握した上で売上見込みを立てることです。
顧客の年齢層や性別、リピート率、1回あたりの購入単価などを分析し、それに基づいて月ごとの想定売上や必要在庫数を割り出します。
この段階で、損益分岐点を算出しておくと、PL設計が現実に即したものになり、過剰投資や赤字リスクを避けることができます。
工数が多いときはツールの活用も検討
必要なデータをそろえる段階で作業が煩雑だと感じたら、各項目を入力するだけで書類作成をサポートできるツールを活用してみましょう。
モデルケースで学ぶEC/D2C事業のPL作成
D2C事業、とくにサブスクリプション型の単品リピート通販では、PLを具体的な数値でシミュレーションしておくことが重要です。以下はモデルケースをもとにしたPL作成の実践例です。
【モデルケース】
A社 |
化粧品ビジネスを始めるため、5,000万円の資金を準備。 |
まず把握しておかなければならないのは、自社にどれだけ資金があり、事業開始初期と事業開始後にどのような売上とコストが発生するのかです。
事業資金
5,000万円
売上
商品代金 :初回費用 1,980円/個
商品代金 :2回目以降 6,980円/個
コスト
[売上原価]
商品原価 :500円/個
同梱物費用:15円/1配送毎
発送費用 :600円/1配送
決済手数料:5%/売上
[販管費]
広告単価 :6,000円/獲得件数
倉庫費用 :10万円/月
LP作成 :150万円
カート費用:10万円/月
ツール初期費用 :30万円
人件費 :30万円/人 5人で運用
事務所家賃 :50万円
光熱費 :月毎で変動
インフラ費用:7万円+電話料金
雑費 :月毎で変動
上記数字の把握ができたら売上目標数字を当て込み、これをスプレッドシートに落とし込んでいきましょう。
売上目標
初月獲得数:100件
なお、初月から反映する売上とコストは、以下の通りです。
売上
1,980円×100件=198,000円
コスト
[売上原価]
【納品在庫】 500円×100個=50,000円
【物流費用】 600円×100件=60,000円
【決済手数料】1,980円×100件×5%=9,900円
[販管費]
【広告単価】 6,000円×100件=600,000円
【倉庫費用】 100,000円
【LP制作費用】1,500,000円
【カート費用】 100,000円
【ツール初期費用】 300,000円
【人件費】 30万円×5人=1,500,000円
これで初月分のPLが完成しました。コストについての計算式と費目については今後も踏襲してまいります。
では、次月以降どういった考え方が追加されるのかですが、EC・D2C事業(サブスクリプションを採用した単品リピート通販モデルの場合)でもっとも大事な継続率を加味していく必要があります。
前述した項目の他、「顧客の継続率を維持・向上させるための具体的な取組案」、「計画通りにいかなかった場合の資金調達・補填方法」などを記載するとより事業計画書の信頼性が高まるでしょう。
継続率を維持・向上させるため、顧客へのアフターサービスや関連商品・情報の提供、顧客ではなく企業側から商品やサービスを提案するシステム、複数のサブスクリプションを用意して選択の幅を広げるといった施策が考えられます。
このような施策に掛かる経費は在庫管理や顧客応対といった「人件費」として反映されます。必要経費を削りすぎた損益計算書はECサイトの質を低下させ顧客の継続率低下を招く恐れがあるため、余裕を持って設定しておきましょう。
本D2C事業を事業として成立させるためには
① 初回価格を抑えてでも新規顧客を獲得する
② 獲得した顧客を商品、会社のファンにさせ、長期に渡り継続してもらう
この二点を達成することを考慮して、PLは作成していかねばなりません。
サブスクリプションを採用する場合、D2C事業の考え方として顧客の状態は”新規”と”定期顧客”で二分されます。
定期顧客は月毎に解約率を設定し、毎月の残顧客にその率をかけ続けていくことになります。
D2Cでは獲得後の継続率がPLに大きな影響を与えます。たとえば、初月に100件獲得し、以降毎月30%の解約があると仮定した場合の残存顧客数は以下の通りです。
初月 |
2ヶ月目 |
3ヶ月目 |
4ヶ月目 |
5ヶ月目 |
100 |
70 (-30%) |
49 (-30%) |
34 (-30%) |
23 (-30%) |
売上ベースで考える計算式としては以下の通りとなります。
新規顧客:初回価格×獲得数
定期顧客:2回目以降価格×(2ヶ月目+3ヶ月目+4ヶ月目…)
各月の獲得数に上記継続率を乗じていき、毎月何件の受注となるのか、その受注に応じた費用はいくらになるのかを計算し、1年分の費用を算出していきます。
このように、顧客のライフサイクルと継続率がD2CのPLに直結するため、あらかじめ売上とコストの継続的推移を設計しておく必要があります。
PL改善のポイント
PLは作って終わりではなく、実際の事業進行とともに改善していく必要があります。
特にEC/D2Cモデルでは、継続率や広告費、人件費の調整が収益性に直結します。
継続率向上の取り組み
D2Cビジネスでは、顧客をいかに長く継続させるかがPLの成否を分けます。
単品リピートモデルでは、初回赤字をリピートで回収する構造のため、解約率のコントロールが極めて重要です。
具体的な取り組み例は以下になります。
- アフターサービスの充実
- スキンケア情報など付加価値コンテンツの提供
- セット購入やアップセルの提案
- スキップ機能や継続特典などの柔軟な定期制度
これらは一見「販促施策」のように見えますが、長期的には人件費や問い合わせ削減につながるため、PL上の効率化にも貢献します。
固定費と変動費の見直し
PLを健全に保つためには、固定費と変動費のバランスを意識することが欠かせません。
特に見直しやすいのが以下の項目です。
- 広告費:CPAやROASに応じて投下量を柔軟に調整
- ツールコスト:機能が重複していないか精査
- 人件費:繁閑に応じてリソース配分を最適化
- 倉庫・配送費:提携先の見直しや量による交渉
こうしたコスト構造の再設計により、「売上は伸びているのに利益が出ない」という状態から脱却しやすくなります。
テンプレートを活用してPLを改善する
PLの作成や改善には実務的なテンプレートが有効です。
とくにD2C特有の構造に合わせたフォーマットがあれば、作業工数を削減しつつ、見落としのない損益シミュレーションが可能になります。
無料テンプレートで効率化
ここまで読んでくださった方向けに、PLのテンプレート(スプレッドシート形式)を無料で配布しています。
D2CモデルのPL設計は、「赤字覚悟の初回施策→継続率で回収」という前提のもと、数字の見通しを可視化することが重要です。
今回ご用意したテンプレートでは、LTV・CPA・継続率をベースに、PL全体の収支構造をリアルにシミュレーションできます。
利用できるテンプレートの内容
このテンプレートでは、以下のようなD2C事業特化のPLシミュレーションが可能です。
- 継続率や解約率の設定で、アクティブ会員数と売上の推移を自動計算
- 初回・2回目以降の価格設計と原価・送料・CPAを入力し、黒字化タイミングを可視化
- 営業利益・最大赤字・LTV利益率などの主要KPIが自動で算出される
- 数字はすべてグラフで視覚化され、チームや社内への説明にも活用しやすい
「赤字で始めても、何ヶ月で回収できるか」「どこを削れば利益が改善するか」が、直感的にわかる構成になっています。
テンプレート活用のヒント
- テンプレートをダウンロード
- 単価・原価・CPA・継続率などの主要指標を入力
- Outputシートで自動グラフ・利益指標を確認
- 「固定費を含んだPL」も別シートで調整可能
このテンプレートは、事業立ち上げ時のPL設計だけでなく、既存PLの改善・施策検討・社内報告にも活用できます。
まとめ|PLを継続的に改善し、事業を伸ばすために
損益計算書は一度作って終わりではありません。
EC・D2Cビジネスは市場や広告環境の変化が早く、継続的な見直しが必要です。
損益計算書を定期的にアップデートすることで、費用や利益のブレに早期に気づくことができます。
さらに、自社内だけで完結せず、外部パートナーや顧問税理士など第三者の視点で確認することで、PLの整合性や矛盾点に気づける場合もあります。
ビジネスの成長ステージに応じて、PLの作り方や見るべき指標も変化します。
数字を味方につけて、ブレのない成長計画を立てていきましょう。
※2:ecforce導入クライアント38社の1年間の平均データ / 集計期間 2021年7月と2022年7月の対比
※3:事業撤退を除いたデータ / 集計期間 2022年3月~2022年8月