この記事でわかること
事業計画書とは、一言でいうと事業の内容や魅力、今後取り組むべき指標が簡潔にまとまった資料です。ECに限った話ではありませんが、事業を立ち上げる上で必要不可欠なものだと言えます。
たとえば銀行やVC、お客様、取引先と信頼構築を構築するための説明資料として、また、立ち上げ資金やランディングコストの調達、ステークホルダーへの説明資料として、事業計画書が協力体制を作る元だと言っても過言ではありません。
特に成長著しいD2Cブランドをつくる上で、ブランドが急成長する軌跡をシミュレーションするための試金石だと言えるでしょう。本稿ではサブスクリプションを採用したEC事業を想定して、事業計画書の中でも特に重要な主に損益計算書(PL)の作り方を見ていきます。
この記事を最後までご覧いただいた方のために、事業にすぐ使える実践フォーマットを配布させていただいております。ぜひご活用下さい。
これからECカートを決める方・いまのECカートに満足してない方へ。以下の記事にも、あなたのお悩みが解決する情報が満載です。
【ECサイト構築サービス22個の比較表】おすすめ国産SaaS型ECシステムもご紹介
4つのECサイト構築事例。新鋭D2Cブランドの動向から読み解く「狙い」とは?
事業計画書とは
事業計画書はECサイトに限らず事業全般で非常に重要な意味を持っています。
前述どおり自社以外との取引や交渉で有効なことはもちろんですが、その本質は自社での有効活用。
自分たちが目指すゴールはどこなのか、どのように事業を展開すればいいのかを表す地図のようなものです。
事業に関わるボードメンバーは無意識で常に脳内に事業計画を策定しているはずですが、流通や顧客対応などのチーム末端まで全員が同じ意識を持つ必要があります。
明確な事業目標や数字をアウトプットして書類化しておくことで、目標達成するためにどうすればいいのかが非常に明確になります。
刻々と変化していくマーケットの情勢や顧客管理で当初の目的が曖昧になり、チームメンバーの意識にずれが生じることもあるでしょう。
そういった時に改めて事業計画書の練り直しや確認をすることは、EC・D2C事業にとって大きな意味を持ちます。
ECサイトにおける事業計画の重要性
極論を言えば、事業計画がなくてもECサイトを始めることは可能です。
ただし、世界中どこからでもアクセスできるというECサイトの特性を考えれば、事業計画書を作成することは必然といえるでしょう。
ECサイトは実店舗と異なり、お客様と直接交流することがありません。
商品やサービスに気が付いてもらい、必要とされる方に届くまでは積極的な努力が必要になります。
このため、ターゲット層や顧客データの分析、購入理由や動機の分析など、細かなターゲット設定が必要となります。
その上で「必ず実現しなければならない目標」を明確にすることが売り上げ確保に繫がります。
「こうありたい」という希望的観測をまとめたデータではありません。
客観的なデータ分析と明確な損益計算を備えた事業計画書を作ることで、ECサイトが動き始めた後も軸ぶれせずに運営することができるのです。
ECサイトの事業計画書を作る前に
事業計画書は具体的であればあるほど有効性が増します。
- 自社の収支やリピート率などの現状
- 損益計算を元に黒字化する時期を見定める
- 広告費などの予算を概算し、広告会社を選定
- 制作会社の選定
これらのデータを集め、事業計画書に盛り込めるように分析しましょう。
特に自社の現状把握はECサイトにとって非常に大切です。
自社の製品を購入している顧客の年齢層や性別、リピート率、顧客単価などを確認し把握することで売り上げ見込みを策定できます。
損益分岐点をシミュレーションし、信頼性のおける損益計算書を作成することがポイントです。
必要なデータをそろえる段階で作業が煩雑だと感じたら、各項目を入力するだけで書類作成をサポートできるツールを活用してみましょう。
ECの事業計画書に記載する内容
それではいよいよ事業計画書を作成します。
一般的にEC事業の事業計画書に記載する内容は以下の通りです。
【事業のビジョンや理念】
事業の方向性が定まっているのか。ブレない信念があるのかを記載します。
【事業概要】
構想している事業の全体概要を記載します。
【販売戦略】
顧客にはどのような課題があり、どれくらいの社会需要があって、どのように自分たちの事業を顧客に届け、いくらで販売していくのか。ビジネスとして成立する根拠を示します。
サブスクリプションならではの販売戦略が提示できるかもポイントです。
【独自の価値提案】
自分たちしか出来ないこと。競合優位性を説明します。
特にサブスクリプションを採用したECサイトの場合、顧客に飽きさせずメリットを感じさせるための価値提案が重要になります。
【市場】
自分たちのビジネスが置かれる状況を客観的・定量的に分析した結果を書きます。
【サプライチェーン構造(仕入れからお客様に渡るための一連の流れ)】
どこで作り、どこで保管し、どのようにお客様のもとへお届けするのかを記載します。
この項目はD2C事業の場合アピールポイントになるため、自社からお客様まで責任を持ってお届けできる点を明確にしましょう。
【損益計算書(PL)】
事業自体の利益予想となります。投資家や銀行、ステークホルダーもこの数字をもとに判断をしていく事が多いので、最重要項目と言っても過言ではありません。
サブスクリプション採用だからこそのアピール
ECサイトでサブスクリプションを採用する場合、従来の単調な定額制購入との差異をはかることが成功の秘訣となります。
事前に準備しておいた各種データを事業計画書の項目に沿ってしっかり記載し、自社の事業に顧客獲得性があることをしっかりアピールしてください。
顧客乖離を防止するために新企画を行う、新商品を開発・導入する、広告媒体を変化させるといった計画も必要です。
そういった場合に予算をいくら掛けられるかも提示してあると非常に具体的な事業計画書になります。
そのためにも重視したいのが損益計算書です。
ECサイトにおける事業計画では損益計算書(PL)が重要
一般的な事業計画書に必要な項目は前述の通り、自分のビジネスが成立する根拠を以下の二つを軸に説明していくものです。
- 定性的 (情緒的、構造的に納得感があり、ビジネスとして成立している)
- 定量的 (客観的根拠に基づき、ビジネスとして成立している)
その中でも、「損益計算書(PL)」は先の説明でも挙げた通り、定量的に数的根拠が視認される項目となるため、綿密に考察を重ねていく必要があります。さらに基本を抑えるために、「損益計算書(PL)」の項目について一緒に確認していきましょう。
損益計算書(PL)の項目
経営は現状分析から、長期視点と短期視点の両面での予測が必要です。
損益計算書を理解すれば、直近でどれだけ費用が必要なのか、事業を運営していくためには毎月、毎年どれだけコストがかかるのかが分かり、まず短期視点での経営が可能となります。
短期視点で見極めをするためには、以下で紹介する5つの利益の種類、および内容を理解しなければなりません。
売上総利益 :売上から売上原価を引いたもの
営業利益 :売上総利益から販売および一般管理費を引いたもの
経常利益 :営業利益に営業外収益と営業外費用を加算もしくは加減したもの
税引き前当期利益:経常利益に特別利益を足して営業外損益を引いたもの
当期純利益 :税引き前当期利益から法人税などを差し引きしたもの
短期予測を繰り返し立てていくことで予測数字との乖離が明確になり、そこを起点として次の予測が立てられるようになるので、最終的に長期視点で先を見越した予測経営が可能になっていきます。
EC・D2C事業において考慮しなければならない項目
EC・D2C事業のビジネスモデルによっては、開業初期の売上が少ない時期から在庫の確保やマーケティング費用で資金を投入する必要があります。
商品やサービスの提供をどういったECカートで提供するかによっても経費は異なります。
完全に自社ECサイトでカート展開するのか、モール出店するのかを事業計画書内に盛り込み、具体性を高めましょう。
モール出店は手数料が発生する代わり、多くの人に自社の情報を届けることができます。
前述した「ECサイトの事業計画書を作る前に」で紹介した通り、自社の商品を求めているターゲットゾーンを意識してモール出店を考慮してください。
スモールビジネスとは異なり、スタートアップ企業のように業績がJカーブで上がっていくことが多いため、初期段階では赤字が膨らむ可能性が高いです。(注釈:※1)
その赤字幅を低減するために、各企業は顧客ロイヤルティを上げ、継続率の改善に努めていく必要があります。そして、その継続率は損益計算書にも直結します。
考慮する主な項目は以下の通りですが、これらも考慮しながら作成していきます。
<売上費目>
商品代金 (初回安くしているのであればそちらも考慮)
<支払費目>
[売上原価]
・商品原価
・送料
・決済手数料
[販管費]
・人件費
・倉庫保管料
・カートシステム代金
・他ツール代金
・広告代金
・事務所費用や光熱費、インフラ代
<特殊考察要件>
・税金
・顧客継続率
実践編:サブスクリプションを採用するEC・D2C事業の損益計算書(PL)
ここまでの内容で、損益計算書がどのようなものなのか概要はご理解いただけたかと思います。それでは、実践編としてサブスクリプションを採用するEC・D2C事業のPLを作成していきましょう。
※第2項で説明した各種利益の種類のうち【経常利益】【税引前当期純利益】【当期純利益】は期末の決算時期にて考慮するので今回の考察からは外します。
【モデルケース】
A社 |
化粧品ビジネスを始めるため、5,000万円の資金を準備。 |
まず把握しておかなければならないのは、自社にどれだけ資金があり、事業開始初期と事業開始後にどのような売上とコストが発生するのかです。
事業資金
5,000万円
売上
商品代金 :初回費用 1,980円/個
商品代金 :2回目以降 6,980円/個
コスト
[売上原価]
商品原価 :500円/個
同梱物費用:15円/1配送毎
発送費用 :600円/1配送
決済手数料:5%/売上
[販管費]
広告単価 :6,000円/獲得件数
倉庫費用 :10万円/月
LP作成 :150万円
カート費用:10万円/月
ツール初期費用 :30万円
人件費 :30万円/人 5人で運用
事務所家賃 :50万円
光熱費 :月毎で変動
インフラ費用:7万円+電話料金
雑費 :月毎で変動
上記数字の把握ができたら売上目標数字を当て込み、これをスプレッドシートに落とし込んでいきましょう。
売上目標
初月獲得数:100件
なお、初月から反映する売上とコストは、以下の通りです。
売上
1,980円×100件=198,000円
コスト
[売上原価]
【納品在庫】 500円×100個=50,000円
【物流費用】 600円×100件=60,000円
【決済手数料】1,980円×100件×5%=9,900円
[販管費]
【広告単価】 6,000円×100件=600,000円
【倉庫費用】 100,000円
【LP制作費用】1,500,000円
【カート費用】 100,000円
【ツール初期費用】 300,000円
【人件費】 30万円×5人=1,500,000円
これで初月分のPLが完成しました。コストについての計算式と費目については今後も踏襲してまいります。
では、次月以降どういった考え方が追加されるのかですが、EC・D2C事業(サブスクリプションを採用した単品リピート通販モデルの場合)でもっとも大事な継続率を加味していく必要があります。
前述した項目の他、「顧客の継続率を維持・向上させるための具体的な取組案」、「計画通りにいかなかった場合の資金調達・補填方法」などを記載するとより事業計画書の信頼性が高まるでしょう。
継続率を維持・向上させるため、顧客へのアフターサービスや関連商品・情報の提供、顧客ではなく企業側から商品やサービスを提案するシステム、複数のサブスクリプションを用意して選択の幅を広げるといった施策が考えられます。
このような施策に掛かる経費は在庫管理や顧客応対といった「人件費」として反映されます。必要経費を削りすぎた損益計算書はECサイトの質を低下させ顧客の継続率低下を招く恐れがあるため、余裕を持って設定しておきましょう。
本D2C事業を事業として成立させるためには
① 初回価格を抑えてでも新規顧客を獲得する
② 獲得した顧客を商品、会社のファンにさせ、長期に渡り継続してもらう
この二点を達成することを考慮して、PLは作成していかねばなりません。
サブスクリプションを採用する場合、D2C事業の考え方として顧客の状態は”新規”と”定期顧客”で二分されます。
定期顧客は月毎に解約率を設定し、毎月の残顧客にその率をかけ続けていくことになります。
例えば初月に100件獲得したが、次月以降は毎月30%ずつ解約希望顧客がいると想定すると、各月の残顧客数は以下のように推移していきます。
初月 |
2ヶ月目 |
3ヶ月目 |
4ヶ月目 |
5ヶ月目 |
100 |
70 (-30%) |
49 (-30%) |
34 (-30%) |
23 (-30%) |
売上ベースで考える計算式としては以下の通りとなります。
新規顧客:初回価格×獲得数
定期顧客:2回目以降価格×(2ヶ月目+3ヶ月目+4ヶ月目…)
各月の獲得数に上記継続率を乗じていき、毎月何件の受注となるのか、その受注に応じた費用はいくらになるのかを計算し、1年分の費用を算出していきます。
いかがでしたでしょうか。
意外とシンプルに作成出来たかと思います。
毎月の利益がいくらなのかを計算し、利益が出た月には顧客のために新たな施策を企画したり、損益が出そうな月はコストを抑える対策や準備も視覚的に判断していくことが出来るはずです。
サブスクリプションを採用したEC事業では、この顧客のための新たな施策が非常に重要です。
顧客が決められた商品やサービスの中から選択する方式では、母体の数が少ないと飽きが生じてしまいます。
解約率を下げるために顧客を飽きさせないための新たな施策を講じ、それがさらなる利益の向上につながるポイントとなるでしょう。
まとめ
ここまでで、事業計画書の一端を作成出来るようになったと思います。
ただ、あくまでも損益計算書を始め事業計画書は一つの資料にすぎず、数字に根拠をもたせ、何をすべきかを簡潔にまとめ、今、何をすべきなのかをはっきりさせるためのものです。
しかし、私たちの経験では、ほとんどの経営者は事業計画を常に考えています。
毎月のお金や事業の流れを常に把握し、アップデートをし続けていくこと。そして定期的に第三者にアウトプットして矛盾点がないか確認すること。
こうしたことを通して事業を育てていくことが大切なのです。
特にサブスクリプションを採用した単品リピート通販モデルや、D2Cのようなビジネスモデルの場合、前述の通り顧客は新規だけではなく定期購入の方がいます。先行投資はかさみますが、その方がもたらしてくれる利益が積み上がり、いつしか損益分岐点を超えるのです。
決して計画通りにいきませんが、損益分岐点を超えてEC事業を発展させるための計画は、できるだけ綿密に立てておくことが重要です。
ここまで読んでいただいた方のために、損益計算書(PL)のサンプルを無料で配布いたします。ご興味がある方はぜひ以下のリンクからお問い合わせくださいませ。
※2:ecforce導入クライアント38社の1年間の平均データ / 集計期間 2021年7月と2022年7月の対比
※3:事業撤退を除いたデータ / 集計期間 2022年3月~2022年8月