この記事でわかること
D2Cについて今まで様々な視点で理解を深めてきました。
マーケティング視点で考えたのが前回の記事ですが、今回はD2Cを語る上でとても大切な”ブランディング視点”で色々と考察してみたいと思います。
モノが溢れている現代において、課題を解決する機能的な価値だけでは顧客に振り向いてもらえません。そこで大事になってくるのがブランディングです。
まずはブランディングについて理解を深めていきましょう。
ブランドの由来とブランディングの意味
ブランドという言葉の由来をご存じでしょうか。
ブランドの語源は主に豚に押していた焼印です。かつて豚を区別するために、どこの豚なのかがわかる印をつけていました。
今のブランドの意味とは関係ないような気もしますが、ブランドと聞いてパッと思い浮かぶブランドロゴは、人々に良い印象を与えるための印としての役割があります。
他にもWebサイトやリーフレットなど、ブランドはロゴに限らず顧客との様々なタッチポイントで良い印象を作っています。
さて「良い印象」という言葉が出ましたが、人々の「良い印象」はすなわち「情緒的価値」に置き換えることができます。
世界的に有名なブランドほど、この情緒的な価値の伝え方が上手です。
例えばAppleの情緒的な価値とは何でしょうか。
言語化に差異はあると思いますが、洗練された上品でシンプルなデザインや質感を連想する人は多いでしょう。あるいは、ひと昔前になりますが「Think different.」に代表されるようなラディカルで革新的なイメージを抱く人が多いはずです。
このようにブランドは機能面だけではなく、人々に対して情動的に訴えかける良い印象を持っています。そして、この印象こそ情緒的価値と呼ばれる価値になり得るのです。
マーケティングとブランディングは喧嘩すべき?
ではD2Cにおけるブランディングとはどんな役割を持つのでしょうか。
まずはマーケティングとの対比で考えてみましょう。
かつてマーケティングの説明を以下のようにしました。
D2Cにおけるマーケティングとは、広告を通じて得た定量的なデータやカスタマーサクセスが集める定性的な声を、商品開発や顧客選定、マーケティング施策自体にまで反映する一連のサイクルとも捉えられます。(中略)
データを全方位的に活用することで、初めてD2C的なマーケティングが実現できます。
つまりD2Cにおけるマーケティングの役割は、このサイクルをスピーディーに回すことで、顧客の反応を素早く反映していくことだと言えます。
出典:「D2C的ではないマーケティング3つから、D2C的なマーケティングを考える」
D2Cにおけるマーケティングはデータドリブンがキーワードです。
データを活用してスピーディにサイクルを回すことで顧客の反応を素早く反映して、課題解決の精度を高めていきます。
しかしブランディングは、課題に対する解決ではありません。
ブランディングは情緒的価値を高めることで、課題解決とは別の”買う意味”を作ります。
マーケティングもブランディングも商品を売り、事業を繁栄させる点では同じ活動です。しかし、そのアプローチや時間軸が異なるため違う役割を持っているのです。
あえて言いますが、マーケティングとブランディングは喧嘩したほうがいいと思います。
それぞれがブランドのためを思って企画した施策を、双方の視点をもって統括できることが何よりです。どちらかが強くてバランスがとれない場合、そのブランドが長く続くことはないでしょう。
D2Cのブランディングに必要な4つのこと
ではD2Cのブランディングにおいて必要なことは何でしょうか。
簡単に語れない深いテーマですが、ここでは本当に重要な4つを紹介します。
1.ブランディングの責任者を置く
貴社にはブランディングの責任者が存在するでしょうか。
「マーケティングの責任者はいるけど、ブランディングはそこまで重要だと思わない。」
あるいは「ブランディングはマーケティング部が兼務している。」といった声には、反論したい気持ちが含まれるかもしれません。
しかし、ブランディングの責任者は絶対に置いてください。
先述した通り、マーケティングとブランディングはバランスをとるべきです。
例えばD2Cのマーケティング施策の一つとして、若い人に影響力が高いインフルエンサーに商品を紹介してもらったら、支持を一瞬で得られるかもしれません。
売れるから良いと単純に思いがちですが、長い目で見た時にそのインフルエンサーで良いのか、インフルエンサーが発信するメッセージはブランドのためになっているかなど、注意深く考える必要があるのです。
全ての施策をブランディング視点で考える責任者がいて、マーケターと良い意味でぶつかり合い、双方を総括する人がバランスをとれる体制が理想的です。
2.ブランドDNAを作る
ブランドには思想や価値、方向性などをまとめた核となるものが必要です。
世界で活躍する2人の日本人デザイナーの著書『ニューヨークのアートディレクターがいま、日本のビジネスリーダーに伝えたいこと』では、この核となるものを”ブランドDNA”と表現しています。
ブランドDNAとは聞き慣れない言葉かもしれませんが、例えば「顧客像」「プロダクトの価値」「ブランドのビジョン」「ブランドの人格」「ブランドストーリー」など、全部で14個にものぼる項目を概念化したものです。
著者はブランドDNAについて、このように述べています。
ここが不確かだと、この後のブランディングが砂上に城を立てるような危ういものになってしまいます。(中略)
消費者だけでなく、このブランドに関わる全ての人々が、混乱することなく確実に理解し、誰もが迷わず同じ方向を目指せるように、正確に明確にシンプルに定義する必要があります。
ブランディングと聞くとデザインを思い浮かべる人は多いかもしれません。
しかし、ブランドのデザインを起こすためには、何よりも先にブランドの本質を明確に概念化する必要があるのです。
3.ブランドのVIを作る
ブランドDNAができたら、ビジュアル・アイデンティティ(VI)を用意しましょう。
ここでも先ほどの本から引用します。
ビジュアル・アイデンティティ(VI)は、これからつくり上げていく制作物の基礎となるビジュアルのルールで、全てのビジュアルがこのVIに従ってつくられていきます。
ブランドDNAでつくり上げたものを視覚的に伝え、ターゲット・オーディエンスにとって魅力的に表現するのが目的です。
皆さまが思い浮かべるブランドのデザインは、Webサイトやリーフレットなど、最終的にアウトプットされた制作物だと思います。
VIはそれら制作物をつくるために作られるルールで、世界観やコンセプト、色や色の彩度&トーン、タイポグラフィなどを決めていきます。
抽象度が高いデザインだからこそ厳格なルールを定め、VIができて初めて制作物がつくられていくのです。
4.ブランドの世界観を全方位的に伝える
ブランドDNAもVIも、形式的に作っただけでは意味がありません。
オーナーやブランディング担当者だけが理解していてもダメです。
D2CはWebサイト・広告・SNSのメッセージ・ステップメール・商品が入るボックス・同梱物・コールセンターの対応など、顧客のタッチポイントは多岐に亘ります。
ブランディングを成功させるには、顧客とのタッチポイント全てにおいて良い印象をつくり、ブランドの世界観を全方位的に伝える必要があります。
その点をおろそかにすると、1〜3でブランドの基礎を作れても大きく育てていくことができません。しかし口で言うのは簡単ですが、最も難しいのが4であるのも事実です。
以上がD2Cのブランディングに必要な4つのことです。
ブランドによって状況は違うと思いますが、この4つは”できれば良い”ではなく、”必要なこと”です。1〜4のうち1つでもできてなかったら、ブランディングの方法を再検討することをオススメします。
【最後に】
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※3:事業撤退を除いたデータ / 集計期間 2022年3月~2022年8月