この記事でわかること
なぜコマースDXが注目されているのか?
近年、デジタルシフトの加速により、顧客の購買行動はオンラインとオフラインの境界を越えて複雑化しています。消費者は、いつでもどこでも自分に最適な商品やサービスをパーソナライズされた形で提供されることを期待するようになりました。
しかし、多くの企業では、縦割り組織やレガシーシステムが障壁となり、迅速な意思決定や顧客対応が困難になっています。そこで注目されるのが「コマースDX(デジタルトランスフォーメーション)」です。
DX(デジタルトランスフォーメーション)とは何か
経済産業省の「デジタルガバナンス・コード実践の手引き(要約版)」によると、DXとは下記のことを指します。
デジタル技術やツールを導入すること自体ではなく、データやデジタル技術を使って、顧客目線で新たな価値を創出していくこと。 また、そのためにビジネスモデルや企業文化等の変革に取り組むことが重要となる。
本記事で紹介するコマースDXとは、テクノロジーを活用し、コマース領域のビジネスを革新する取り組みです。顧客データを統合・分析し、最適な顧客体験を提供することで、競争優位性の獲得が可能です。
コマースDXとは何か
では、コマースDXとは何かを具体的に解説します。
コマースDXに求められるのは単なるECサイト構築ではなく、オンラインとオフラインを統合し、顧客接点をデジタル化することで、より良い顧客体験を創出することです。
DXで得られる3つのビジネス価値
コマースDXを推進することで、単なる業務のデジタル化にとどまらず、企業の競争力を大きく向上させることができます。
ここからは、コマースDXがもたらすビジネス価値を売上拡大 、業務効率化 、顧客エンゲージメント強化の視点から具体的に解説します。
1. 売上拡大
データを活用したパーソナライズ戦略により、顧客の購買体験を向上させ、売上を拡大することができます。
【売上拡大の具体例】
ユニクロ(ファーストリテイリング)
アプリと店舗の連携
アプリでオンラインストアの商品をチェックし、店舗で試着・購入が可能です。店舗で在庫がない商品を、アプリから注文して自宅に配送することもできます。またアプリで過去の購入履歴を確認でき、おすすめ商品を表示します。
ユナイテッドアローズ
パーソナルスタイリングサービス
オンラインでスタイリストに相談し、おすすめのコーディネートを提案してもらえます。そこで提案された商品を、オンラインストアや店舗で購入することが可能です。
アダストリア
顧客データの一元管理
「.st(ドットエスティ)」という自社のプラットフォームで複数自社ブランドのオンラインストアと実店舗を結び付けています。オンラインストアと店舗の顧客データを一元管理し、顧客の属性や購買履歴を分析でき、顧客一人ひとりに合わせた情報やサービスを提供可能です。
JINS
バーチャル試着
オンラインでメガネのバーチャル試着を行い、自分に似合うメガネを見つけられます。バーチャル試着で気に入ったメガネを、オンラインストアや店舗で購入可能です。
JINS BRAIN / JINS MEME
JINS BRAINではAIを活用して、個人の好みに合わせたメガネを提案します。JINS MEMEではセンシングアイウエアで得たデータから、集中力の状態などを把握できます。
これらの企業は、それぞれのブランドや顧客層に合わせて、オムニチャネル戦略×パーソナライズを積極的に推進しています。
2. 業務効率化
コマースDXは売上拡大だけでなく、業務の効率化にも大きく貢献します。リアルタイムのデータ連携により、需要予測の精度を高め、過剰在庫や欠品を防止します。またAIを活用した業務自動化により、生産性を向上させることが可能です。
【業務効率化の具体例】
ユニクロ(ファーストリテイリング)は、RFIDタグを導入し、リアルタイムの在庫管理を実現。店舗スタッフの業務効率を大幅に改善しました。
Amazonの倉庫では、AIとロボット技術を組み合わせ、ピッキングやパッキング作業を自動化。出荷スピードを向上させています。
(参考:製造DX.com「Amazonやニトリも導入している!―物流倉庫で活躍するロボットシステム」)
3. 顧客エンゲージメント強化
売上拡大と業務効率化に続き、 顧客エンゲージメント強化もコマースDXの重要な成果のひとつです。シームレスな顧客体験を提供することで、ブランドへのエンゲージメントを強化できます。
顧客エンゲージメント強化の具体例
スターバックスは、モバイルアプリを通じて、顧客の購入履歴に基づくパーソナライズされたプロモーションを実施。結果として、アプリ経由の購入率が向上しました。
(参考:One Capital「Web3.0技術を活用したスターバックスのDX戦略とは-「顧客とのつながり」から「顧客同士のつながり」へ -」)
IKEAは、オンラインと店舗のデータを統合し、オムニチャネル体験を強化しています。
(参考:BizZine「イケアが実践するオムニチャネル戦略──店舗・オンライン・従業員の連携で快適な顧客体験を提供する」)
このように、コマースDXは売上拡大、業務効率化、顧客エンゲージメント強化の3つの側面で大きなビジネス価値をもたらします。
次に、これらの成果を実現するために欠かせないDX成功のための重要なポイントを解説します。
DX成功のために重要なポイント
コマースDXを成功させるために、特に重要となる要素は次の通りです。
- データ活用(顧客データを統合・分析し、顧客理解を深める)
- プロセス改善(業務効率化と自動化を推進する)
- 顧客体験の強化(パーソナライズされたコミュニケーション・サービスを提供する)
コマースDXを成功させるためには、単なる技術導入だけでは不十分であり、企業文化や組織の変革も重要になります。DXの本質は、データ活用・業務プロセス・顧客体験の変革を通じて、企業全体の競争力を高めることにあります。ここでは、DXを推進する上で特に重要となる3つのポイントを解説します。
1. 顧客中心の視点
DXの本質は、顧客体験を軸にビジネスを再構築することにあります。顧客のペインポイント(不満や課題)を正確に把握し、それを解決する形での戦略設計が重要です。従来の製品・サービス主導の発想から脱却し、顧客ニーズに応えるための体験設計を行うことで、エンゲージメントを強化し、ブランドへのロイヤルティを高めます。
また、データ分析を活用することで、顧客インサイトを具体化します。購買履歴、行動データ、SNSのフィードバックなど、多様なデータを統合・分析することで、顧客の潜在的なニーズを予測し、一歩先を行くサービス提供が可能となります。
【具体例】
Netflixは、視聴履歴や検索データを基に、顧客ごとに異なるレコメンデーションを提供しています。それにより、ユーザーのエンゲージメントを高めています。
(参考:Netflix「Netflixのレコメンド機能のご利用方法」)
ナイキは、アプリを通じて顧客のフィードバックを収集し、製品開発に反映しています。それにより、顧客参加型のブランド体験を実現しています。
(参考:DIAMOND Chain Store「4種のアプリを駆使し、ナイキが顧客との”ディープな関係”を極める理由」)
2. テクノロジーの選択と活用
DXの成功には、顧客データを一元化して管理し、各チャネルでの体験をシームレスに統合することが重要となります。そのためには、CDP(Customer Data Platform)や DMP(Data Management Platform)など、データ統合を容易にするツールやシステムの導入が有効です。
(参考)CDPとDMPの違い
項目 | CDP(Customer Data Platform) | DMP(Data Management Platform) |
---|---|---|
主なデータ | 1st Partyデータ(顧客の属性情報、購買履歴、Webサイトの閲覧履歴など) | 3rd Partyデータ(Webサイトの閲覧履歴、広告のクリック履歴など) |
データの種類 | 個人を特定できるデータ | 個人を特定できない匿名データ |
データの収集・更新 | リアルタイム | 定期的 |
主な利用目的 | 顧客一人ひとりに合わせたマーケティング施策の実施、顧客体験の向上 | 広告配信の最適化、Webサイトの改善、競合分析 |
また、柔軟でスケーラブルな環境を構築することで、ビジネスの変化に迅速に対応できます。クラウドベースのサービスを活用することで、導入・運用コストを最適化し、必要に応じてリソースをスケールアップ・ダウン可能にすることが可能です。
【具体例】
Sephoraは、CDPを活用してオンラインと店舗の顧客データを統合しました。オムニチャネルでのパーソナライズ体験を実現しています。 (参考:日経クロストレンド「顧客データを「宝の山」に変えるには? マーケ活用4つの視点」)
スターバックスは、クラウド基盤を活用し、店舗ごとのデータをリアルタイムに収集・分析しています。そしてローカライズされたキャンペーンを展開しています。 (参考:マイナビニュースTECH+「スターバックスの『モバイルオーダー&ペイ』はいかにして生まれたか?」)
3. 組織変革の推進
DXは、テクノロジーの導入だけでなく、組織文化の変革を伴うものです。従来の縦割り組織を廃し、マーケティング、営業、IT部門が横断的に連携するプロジェクトチームを編成することで、迅速な意思決定と実行が可能になります。
また、DX推進にはリーダーシップが不可欠です。CDO(Chief Digital Officer) や DX推進リーダー を配置し、全社を横断してDX戦略をリードする体制を整えることが成功の鍵です。加えて、社員のデジタルリテラシーを向上させるための教育プログラムを実施し、組織全体でDXの理解を深め、変化を受け入れる文化を醸成します。
【具体例】
資生堂は、DX推進部門を新設し、マーケティングとIT部門が連携する横断組織を構築。デジタルを軸としたブランド体験を強化しています。 (参考:資生堂インタラクティブビューティー「資生堂イノベーションの最前線 ~ 研究所とIT部門が共創するDXの新時代!」)
コマースDXの成功事例紹介
ここまで見てきた3つのポイントを実践することで、コマースDXは成功に導かれます。
次に、これらのポイントを実際に活用した成功事例を紹介します。どのように顧客中心の視点を持ち、テクノロジーを選択・活用し、組織変革を推進したのか、具体的な企業の取り組みから学びましょう。
1. ユニクロ(ファーストリテイリング)
ユニクロは、オンラインとオフラインの融合を進め、顧客体験の向上を図っています。具体的には、店舗在庫をオンラインで確認・購入できるシステムを導入し、顧客の利便性を高めました。また、AIを活用した需要予測により、在庫管理の最適化を実現しています。
2. 資生堂
資生堂は、デジタル技術を活用して顧客との接点を強化しています。例えば、AIを活用した肌診断アプリを提供し、顧客一人ひとりに最適な製品を提案することで、パーソナライズされた体験を提供しています。
3. ニトリ
家具・インテリア業界のニトリは、ECサイトと実店舗の連携を強化し、顧客の購買体験を向上させています。オンラインで注文した商品を店舗で受け取る「クリック&コレクト」サービスを導入し、顧客の利便性を高めました。
これらの事例から、コマースDXの推進が顧客体験の向上や業務効率化に大きく寄与していることがわかります。ぜひ自社のDX戦略を検討する際の参考にしてください。
コマースDXは、顧客体験向上とビジネス成果をもたらす、今まさに取り組むべき重要な戦略です。DXは技術だけでなく、戦略・文化・組織の変革を含む包括的な取り組みであることを理解し、自社のDX課題を特定し、早期に取り組みを始めることが重要です。
まとめ
コマースDXは、顧客体験向上とビジネス成果をもたらす、今まさに取り組むべき重要な戦略です。技術だけでなく、戦略・文化・組織の変革を含む包括的な取り組みが求められます。
まずは自社のDX課題を特定し、早期に取り組みを始めることが成功の鍵です。
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監修
執行役員CMO 飯尾元
大学卒業後、楽天株式会社に入社。その後外資コンサルファームにて、新規事業開発やビジネスモデル変革等のデジタル関連プロジェクトに従事。 2019年にSUPER STUDIOに入社し、2021年に執行役員に就任。現在はCMOとしてセールス&マーケティング部門とエンタープライズ部門を管掌。
※2:ecforce導入クライアント38社の1年間の平均データ / 集計期間 2021年7月と2022年7月の対比
※3:事業撤退を除いたデータ / 集計期間 2022年3月~2022年8月