この記事でわかること
※この記事は 時点の情報をもとに執筆しています。
ロジスティクスとは、原材料の調達から製造、保管、輸送、販売、最終的な顧客への配送まで、製品やサービスの流れ全体を最適化し、一元的に管理する仕組みです。
単にモノを動かす「物流」とは異なり、情報やコスト、在庫、さらには顧客満足度までを含めて統合的にマネジメントするのが特徴です。
近年では、企業活動全体の効率化と競争力の強化を図る上で欠かせない戦略的な概念として注目されています。
しかし、「ロジスティクス」と「物流」の違いや、実際の仕組み、業務内容、メリットについては、まだ十分に理解されていないケースも少なくありません。
本記事では、ロジスティクスと物流の違いを明確にし、その具体的なメリットや業務工程、さらには現代の課題と今後の展望について詳細に解説します。
また、ロジスティクスの前提となるEC倉庫やEC物流の基礎を整理しておくと理解がスムーズです。詳しくは以下の記事で紹介していますので、あわせてご覧ください。
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ロジスティクスとは?
ロジスティクスは、製品やサービスが顧客に届くまでのすべての過程を効率的かつ効果的に管理する一連の活動を指します。
具体的には、原材料の調達、生産、保管、輸送、そして最終的な配送に至るまでの流れ全体を最適化する仕組みです。
この用語は、もともと軍事用語である「兵站」に由来しており、戦場での物資補給や部隊の移動支援といった後方支援活動を意味していました。
現代のビジネスにおけるロジスティクスも、この兵站の概念が発展したもので、企業活動における物資の流れを戦略的に管理するという定義で用いられます。
企業が競争力を高める上で、ロジスティクスは不可欠な要素となっています。
「ロジスティクス」と「物流」の違い
「ロジスティクス」と「物流」は似たような文脈で使われることが多いものの、実はカバーする範囲や目的に大きな違いがあります。
物流はあくまで「モノの物理的な移動」を担うのに対し、ロジスティクスはそれを含む「全体の最適化」を目指す広範な概念です。
ロジスティクスと物流は混同されがちですが、両者には明確な違いがあります。
物流とは、商品の物理的な移動を指し、具体的には輸送・配送、保管、荷役、包装、流通加工、そして情報処理といった6つの機能から構成されます。
一方、ロジスティクスは、この物流を含む、より広範な概念です。原材料の調達から生産、販売、そして最終的な顧客への配送まで、サプライチェーン全体の流れを一元的に管理し、最適化することを目指します。
つまり、物流はモノの流れそのものを意味するのに対し、ロジスティクスはそのモノの流れ全体を戦略的にコントロールし、効率化を図るための仕組みであると言えます。
ロジスティクスは、単なる物流の効率化だけでなく、不良在庫の削減や欠品防止、コスト削減、さらには顧客満足度の向上といった、経営全体の最適化を目的としています。
ロジスティクスに含まれる物流機能とその役割
ロジスティクスの中核を構成するのが「物流機能」です。物流は、製品が顧客のもとに届くまでの物理的な流れを担い、ロジスティクス全体を機能させるための土台といえます。
主な機能として、輸送・配送、保管、荷役、梱包・包装、流通加工、そして情報管理の6つが挙げられます。
輸送・配送は商品の空間的な移動を担い、保管は時間的なギャップを埋める役割を果たします。
荷役は積み下ろしや仕分けといった物理的な商品の取り扱いを指し、梱包・包装は商品の保護と付加価値向上を目的とします。
流通加工は商品の加工や組み立てを行い、情報管理はこれらの各工程を円滑に進めるためのデータ連携を担います。
これらの物流機能が相互に連携することで、商品は適切なタイミングで適切な場所に届けられ、ロジスティクス全体の最適化と顧客満足の実現に貢献しています。
ロジスティクスが目指す戦略的な全体最適化
ロジスティクスが目指すのは、単なる物流部門の効率化に留まらず、経営全体を戦略的に最適化することです。
具体的には、原材料の調達から生産、販売、そして配送に至るまでのすべてのプロセスを一元的に管理し、部門間の連携を強化することで、サプライチェーン全体の無駄を排除します。
これにより、在庫の最適化、物流コストの削減、生産効率の向上、さらには顧客満足度の向上といった経営目標の達成に貢献します。
例えば、需要予測の精度を高め、過剰生産を抑制することで、余剰在庫に伴う保管コストや廃棄ロスの削減が可能になります。
また、最適な輸送ルートの選定や配送スケジュールの最適化により、輸送費や人件費の削減も実現します。
このように、ロジスティクスは、各機能が連携し、情報が共有されることで、経営における意思決定を支援し、企業の競争力強化につながるのです。
ロジスティクスのメリット
ロジスティクスを導入する最大の目的は、企業全体の効率性を高め、経営戦略に直結する成果を生み出すことにあります。
単に物流業務を改善するだけでなく、在庫の最適化、コストの削減、顧客満足度の向上など、企業活動のあらゆる場面で価値を発揮します。
ここでは、ロジスティクスがもたらす代表的なメリットを解説します。
在庫最適化による販売機会の確保
ロジスティクスの重要な目的のひとつが、在庫を適正に保ち、販売機会を逃さないことです。
需要予測を正確に行い、適切なタイミングで適切な数量を生産・調達することで、過剰在庫や品切れを防ぐことができます。
過剰在庫は保管コストや廃棄ロスを生み、逆に品切れは顧客の購買意欲を失わせて販売機会の損失に直結します。
ロジスティクスを導入することで在庫状況をリアルタイムで把握し、生産計画や受注状況と連動させることが可能になります。その結果、販売機会の損失を最小限に抑え、収益の安定化に貢献します。
物流コスト削減によるキャッシュフロー改善
ロジスティクスは、物流コストの削減に直結します。輸送ルートの最適化や積載効率の向上、倉庫レイアウトの見直し、在庫管理の徹底などにより、無駄なコストを削減できます。
例えば、配送計画の効率化によって燃料費や人件費を削減したり、共同配送やモーダルシフトを導入することで輸送単価を抑えることが可能です。
また、適正在庫を維持することで保管コストやデッドストックを減らせます。
こうした取り組みは企業のキャッシュフローを改善し、健全な経営基盤を支えることにつながります。
顧客満足度の向上と競争力の強化
ロジスティクスは顧客満足度の向上にも大きく寄与します。迅速かつ正確な配送を実現することで、顧客の期待に応え、信頼関係を築くことができます。
特にEC市場の拡大により、「翌日配送」「即日配送」といったスピードへの要求は高まっています。
ロジスティクスの仕組みを整備することで、受注処理の自動化や在庫情報のリアルタイム連携が可能になり、欠品防止や配送のスピードアップを実現します。
結果として顧客からのクレーム減少やリピート購入率の向上につながり、企業の競争力を高めることができます。
調達・輸送の最適化による安定供給
ロジスティクスでは、調達と輸送の最適化も重要な役割を果たします。
サプライヤーとの連携を強化し、価格だけでなく品質・納期・持続可能性など多角的な基準で評価することで、安定的かつ効率的な調達体制を築けます。
また輸送においては、コスト・リードタイム・荷物特性・環境負荷などを考慮し、最適な手段(トラック・鉄道・海上・航空など)を選定します。
輸送ルートの効率化や積載率の向上により、燃料費削減やCO₂の排出削減も可能です。これにより、安定供給と環境配慮の両立を実現します。
ロジスティクス業界の課題と解決策
現代のロジスティクスは、需要の多様化やEC市場の拡大を背景に大きな転換点を迎えています。
企業にとっては競争力を高めるチャンスである一方、現場では深刻な課題が存在します。
ここでは、ロジスティクスが直面している代表的な課題と、その解決に向けたアプローチを解説します。
人手不足を解消する自動化・省人化
物流業界全体で慢性的な人手不足が続いており、特に倉庫作業や配送ドライバーの不足は深刻です。
背景には少子高齢化や労働環境の厳しさがあり、このままでは安定した物流体制の維持が難しくなります。
解決策として注目されているのが、自動化や省人化の取り組みです。倉庫内ではロボットやAGV(無人搬送車)を導入することで、ピッキングや搬送作業を効率化できます。
また、配送ではルート最適化システムや共同配送の仕組みを活用することで、少ない人員でも効率的に業務を回すことが可能になります。
燃料費・人件費の高騰とコスト削減
ロジスティクスにおける輸送コストは全体の中でも大きな割合を占めており、燃料費や人件費の高騰は企業経営に直結する課題です。
特に、日本の最新調査では、物流コストのうち輸送費が全業種平均で57.6%と最も大きな割合を占めており、効率化は企業経営において極めて重要です。
その解決策の一つが、輸送手段の最適化です。
トラックだけでなく鉄道や船舶を組み合わせるモーダルシフトや、複数企業が共同で配送を行う仕組みは、コスト削減と環境負荷の低減の両方に効果があります。
出典:2023年度 物流コスト調査報告書【概要版】|公益社団法人 日本ロジスティクスシステム協会
サステナビリティと環境対応
近年は環境への配慮も重要な課題となっています。CO₂排出削減や持続可能な物流体制の構築は、社会的責任であると同時に企業ブランド価値を高める要素です。
解決策としては、低燃費車両やEVトラックの導入、リサイクル可能な梱包材の活用、再利用可能なパレットの導入などが挙げられます。
また、需要予測の高度化による無駄な輸送の削減は、環境負荷の低減とコスト削減を両立できる施策です。
このように、ロジスティクスの課題は「人・コスト・環境」という3つの側面に集約されます。
ITや自動化技術の導入、共同配送やモーダルシフトといった取り組みを組み合わせることで、持続可能で強靭なロジスティクス体制を築くことが可能になります。
ロジスティクスとサプライチェーンマネジメント(SCM)の関係性
ロジスティクスとSCM(サプライチェーンマネジメント)は密接に関連していますが、その範囲と視点に違いがあります。
ロジスティクスは、原材料の調達から最終顧客への配送まで、モノの流れを効率的に管理する活動を指します。
一方、SCMはより広範な概念で、原材料の供給者から製造業者、卸売業者、小売業者、そして消費者まで、サプライチェーン全体に関わる組織や企業のネットワークを対象とし、モノ・情報・資金の流れを統合的に最適化する仕組みです。
つまり、ロジスティクスはSCMの一部であり、SCMの全体最適化を実現するための重要な要素です。
企業の枠を超えて連携するSCMにおいて、ロジスティクスの戦略的管理は基盤となる役割を果たしています。
ロジスティクスにおけるIT活用とDX推進
ロジスティクスの高度化において、ITシステムの活用とDX(デジタルトランスフォーメーション)の推進は欠かせない要素です。
従来は人の経験や勘に頼る部分が大きかった物流業務も、近年ではデータ活用や自動化が進み、サプライチェーン全体の可視化と効率化が実現しつつあります。
ここでは、代表的なシステムと最新技術の活用事例を紹介します。
倉庫管理システム(WMS)の導入効果
倉庫管理システム(WMS:Warehouse Management System)は、入出庫や在庫状況をリアルタイムで管理する仕組みです。
導入することで在庫の誤差や欠品リスクを減らし、棚卸業務の効率化にもつながります。
また、作業者ごとのピッキング精度や作業時間もデータ化できるため、改善ポイントを明確に把握できます。
ECの拡大により多品種小ロット出荷が増えている今、WMSは必須のシステムとなっています。
WMSについてさらに詳しく知りたい方は、こちらの記事もご覧ください。
倉庫管理システム(WMS)とは?仕組みや導入メリットを徹底解説
輸配送管理システム(TMS)によるルート最適化
輸配送管理システム(TMS:Transportation Management System)は、配送ルートや車両の稼働状況を最適化するための仕組みです。
燃料費や人件費の高騰が続く中、効率的なルート設計はコスト削減に直結します。
TMSを使えば、交通状況や配送先の条件を考慮した最適な配送計画が自動で立てられ、ドライバーの負担軽減や配送リードタイム短縮にもつながります。
AI・IoT活用による需要予測とリアルタイム追跡
AIやIoTの活用は、ロジスティクスの精度をさらに高めています。
AIを活用した需要予測は、季節要因やトレンドを考慮して販売数を高精度に見積もることができ、過剰在庫や欠品を防止します。
また、IoT(Internet of Things:モノのインターネット)とは、トラックや倉庫設備といった「モノ」にセンサーや通信機能を組み込み、インターネット経由でデータを収集・共有できる仕組みです。
物流分野では、IoTセンサーを搭載した車両や倉庫設備により、温度・湿度管理や配送状況をリアルタイムで把握することが可能になります。
その結果、品質保持やトレーサビリティ(追跡性)の確保につながり、より高度なロジスティクスマネジメントが実現します。
こうしたデータは経営層の意思決定にも活用され、企業全体の競争力強化に寄与します。
まとめ
ロジスティクスは、原材料の調達から顧客への配送に至るまでのモノの流れを戦略的に最適化する仕組みであり、単なる物流を超えた企業経営の基盤です。
在庫の最適化や物流コストの削減、顧客満足度の向上といった効果が期待でき、SCM(サプライチェーン)の重要な構成要素としても欠かせない存在です。
一方で、人手不足やコスト上昇、環境対応といった課題に直面している現状もあります。
その解決には、AIやIoT、DXといったテクノロジーの積極的な活用が必要です。
これらを取り入れることで、より効率的で強靭なサプライチェーンを構築し、企業の持続可能な成長に貢献できるでしょう。
今後は、ロジスティクスを単なるコスト削減の手段として捉えるのではなく、事業戦略の中心に据える姿勢が求められます。
長期的な視点で取り組むことこそが、企業の競争優位を築く鍵となるのです。
※2:ecforce導入クライアント38社の1年間の平均データ / 集計期間 2021年7月と2022年7月の対比
※3:事業撤退を除いたデータ / 集計期間 2022年3月~2022年8月