この記事でわかること
D2Cブランドの成長は、Web広告をメインとしたいわゆる「デジタルマーケティング」に懸かっていると考える人は少なくないはずです。
データドリブンなPDCAを回す以上、デジタルマーケティングにある程度の予算をかけるのは自然な流れのように思えます。
しかし商材や価格帯など、何らかの理由で広告での勝負が難しいケースもあり、その場合はブランドにとって良い情報が自然と広がっていく仕掛けが重要です。
そこで今回は、具体的なD2CのPR(Public Relations)事例として猫砂「しぐにゃる」のPR戦略を紐解いていきましょう。
※D2CのPRについては、以下も参考になります。合わせてご一読ください。
関連記事:レガシーなPRとモダンなPR。D2CのPRをストーリーとグラフィックの2軸で再考する。
猫砂のD2Cブランド「しぐにゃる」
「しぐにゃる」は尿のpH値などで砂が5色に変化することで、猫の健康状態を知らせてくれる猫砂のD2Cブランドです。
https://www.makuake.com/project/threes3s/
クラウドファンディングのMakuakeで支援を募り、最終的に480万円を超える支援金額と931人もの支援者を集めることに成功しています。
目標金額達成までは、わずか3時間。1週間後には目標達成率600%を記録しました。
さらにビジネスニュースサイト「Business Insider Japan(ビジネス インサイダー ジャパン)」にも大々的に取り上げられ、さらに多くの人に存在を知ってもらえるまでになったのです。
参考:前代未聞の「コロにゃ危機」にネコがZoomでリモートワークする理由(Business Insider Japan)
これだけスピーディに良い結果を残せたのも、猫好きや、情報感度の高い人たちたちが情報を広く拡散してくれたからですが、これは決して運が良かっただけで生まれた結果ではありません。
目標達成の裏には、事前に綿密に練られた「しぐにゃる」のPR戦略があったのです。
「しぐにゃる」が抱えていたPR上の課題
「しぐにゃる」のPR戦略に迫るために、まずは前提を整理します。
そもそも「しぐにゃる」は低単価(販売予定価格:税込3,608円)なので、冒頭でお伝えしたようなデジタルマーケティングで勝負するのは難しいものがありました。
低単価の商品を広告だけで売ると、ただでさえ高騰しがちなクリック単価などの出稿料が原価を圧迫して、利益が出にくい構造になってしまうからです。
つまり、広告を使わないで良い情報をどのように広めるか。これこそ「しぐにゃる」が抱える大きなPR上の課題でした。
D2CブランドのPR戦略に必要な3つのこと
「しぐにゃる」では、この3つを要点としてPR戦略を考えたことで、今回の好結果が生まれました。
- ターゲット設定:誰が広めてくれるのか?
- 文脈形成:なぜ広めてくれるのか?
- 信頼度:0→1の無名ブランドがどう信頼を得られるか?
1~3の順番で、それぞれ見ていきましょう。
1. ターゲット設定:誰が広めてくれるのか?
最初は「1.ターゲット設定」です。良い情報が自然と広まっていく状況を作ることはPRの大きな目的の一つですが、1を見誤ると狙ったように情報の拡散が起きません。
「しぐにゃる」の場合は、猫好きでビジネス的に面白いものに興味がある人をターゲットにしました。ただ猫が好きなだけだと、「しぐにゃる」のような新規性の高い商品には反応してくれないと思い、猫好き×ビジネスへの興味の掛け合わせで想定したのです。
しかし、もしターゲット設定が合っていても、この人たちが「なぜ広めてくれるのか?」を用意しなくては、情報は広く行き届きません。
2. 文脈形成:なぜ広めてくれるのか?
そこで必要になるのは、「2.文脈形成」です。ターゲットが情報を広めてくれる理由を作ります。
「しぐにゃる」の場合は、保護猫が一つのキーワードとなりました。
実は、新型コロナウイルス(COVID-19)の影響で人と同じく保護猫も窮地に立たされていたのです。人に保護された猫が暫定的に暮らすカフェ、通称:保護猫カフェが緊急事態宣言の発令で休業となり、経営が難しくなってしまったのです。
経営が傾けば猫の居場所はなくなってしまうので、困っている猫を助けたいと思うのが猫好きの心情です。
この心情に寄り添う形で、とあるプロジェクトが発足しました。それは猫がリモートワークをするという前代未聞の試み「Remote Cats(リモートキャッツ)」です。
Web会議アプリケーションZOOMで5匹以上の保護猫たちに登場(リモートワーク)してもらい、同時に商品を表示させることでプロモーションにも役立てようというものです。
この「Remote Cats」の第1弾商品として「しぐにゃる」を紹介してもらいました。
ここで重要なのは、ただ「しぐにゃる」を紹介してもらったわけではなく、「猫を助けたい」という心情にしっかり寄り添った文脈を形成し、その文脈を毀損することなく「しぐにゃる」の情報を広めてもらうよう働きかけている点にあります。
3.信頼度:どのメディアとタイアップするか?
最後は信頼度です。良い情報を、信頼度が高いメディアの力を借りて世に広めたいところです。
「しぐにゃる」の場合はターゲットは猫好きです。動物に対する想いが強い人たちですから、動物が不当にビジネス利用されていると感じたら、当然ながら支持は得られません。この点は非常にシビアです。
そこで「Remote Cats」の企画は、2014年の1号店オープン以来、一貫して保護猫活動を続けて猫好きからの信頼も厚いネコリパブリックさんとご一緒することにしたのです。
「しぐにゃる」は新しいブランドなので信頼度はありませんが、猫の健康的な生活を実現する、という同じ想いを持ったネコリパブリックさんと共同で取り組むことで、猫好きからの信頼を得ることができます。
信頼度が高いメディアとのタイアップにより、1で設定したターゲットからの支持を得た上で情報を広めることができるのです。
D2CブランドのPRにおける文脈形成事例
「文脈形成」をさらに深く掘り下げてみましょう。
実は「しぐにゃる」では、全部で以下の3つの文脈を作りました。
- 社会状況:新型コロナウイルス(COVID-19)の影響
- 動物保護:保護猫の問題
- テクノロジー:猫のリモートワーク
そもそも猫が困っているのは新型コロナウイルス(COVID-19)が原因なので、現在の社会状況が反映されていますし、さらに保護猫は以前からある動物保護問題です。
そこにリモートワークという、これまた新型コロナウイルス(COVID-19)の影響で必要性に迫られた、テクノロジーによるソリューションが加わることで、以上の3つの文脈が作られているのです。
このように異なる視点で作られた文脈は複数あると良いのですが、一方でそれぞれの主張が強いと人によって見え方が違ったり、インパクトが分散してしまう懸念もあります。
そこで大事になるのが文脈の整え方です。
「しぐにゃる」の場合、一貫しているのは「困っている猫を助けたい」といった心情であり、3つの文脈すべての根底にこの心情が存在しています。こうすることで、文脈自体が整い、先に挙げた懸念は和らぐのです。
PRに太い幹をつくる
D2CブランドがPRをする上で、文脈を整える重要性をお伝えしました。
そしてここはさらに大事なことですが、プロダクト自体も同じ文脈を内包している必要があります。
いくら上手なPRができても肝心のプロダクトに齟齬があれば、それは言行不一致です。
「しぐにゃる」は猫の健康状態を教えてくれる猫砂ですが、猫はそもそも泌尿器系の疾患で死ぬことが多い上に、弱っていることを悟られまいと隠す習性があります。
そういった理由から病気の発見が遅れ、死に至るケースがあるのですが、「しぐにゃる」は猫が毎日おしっこをするだけで病気のリスクがわかるという優れものです。
このようにプロダクトにも「猫を助けたい」といった心情が一貫して存在しているのです。
プロダクトから一貫して整った文脈を持つことで、PRに一つの太い幹ができ、関わる人たち全てが結束することができます。
この結束こそ良い施策が生まれ、世に広く良い情報が伝わる企画を作り出す源となるのです。
【最後に】
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※3:事業撤退を除いたデータ / 集計期間 2022年3月~2022年8月