この記事でわかること
今まで数々のD2Cブランドをご紹介しましたが、高額のハードウェアを販売するブランドは一つもありませんでした。
そういった意味ではPeloton(ペロトン)は異色のD2Cブランドだと言えるかもしれません。Pelotonが販売しているのは、なんとエアロバイクとランニングマシーンで、それぞれ数十万円もするものです。
この価格を聞いたら、おそらくPelotonが会員数を伸ばし続けていることは信じられないでしょう。「そんな高い製品が売れるの?」と疑う気持ちもわかります。
しかし、事実としてPelotonは支持を集め続けています。
本稿では5つのTIPSをご紹介して、Pelotonの人気の秘密を探っていきましょう。
参考:6つのD2C国内事例。ブランド成長のキーワードは「モノづくり×パーソナライズ」? / 5つのD2C海外事例。若い世代が求める究極にユニークな顧客体験とは?
Pelotonが提供する価値はコミュニティ?
Pelotonの人気は紛れもない本物です。それを証拠に売上・会員数は右肩上がりを続け、先日ついに上場を果たしました。
Pelotonは確かに「在宅フィットネスブランド」としてその名を知られるようになりましたが、たかが家でバイクを漕ぐだけだと思っている人には、絶対にわからないことがあります。
Pelotonがユーザーに提供している価値はなんでしょうか。その点に注目してみましょう。
動画を見ていただければわかりますが、Pelotonが提供しているのは単なるエアロバイクではありません。バイクには見やすい位置にデジタルデバイスが設置されていて、ユーザーは漕ぎながら画面を通じてインストラクターのトレーニングを受けることができます。(ランニングマシンも同様)
インストラクターはまるで俳優のように大袈裟な手振り身振りでユーザーを鼓舞し、時に褒め称え、一緒にトレーニングを完遂してくれます。
在宅フィットネスなので、隣にいてくれるわけではありません。しかし、画面を介して熱狂的な時間を共有し、強烈なつながりを生むのです。
つながりが生まれるのはユーザーとインストラクターの間だけではありません。Pelotonのバイクには別のユーザーの順位が分かったり、ハイファイブ(ハイタッチ)でエールを送ったりする機能があります。
このような機能があることで、ユーザーはインストラクターだけでなく、他のユーザーの存在を感じることができ、オンラインながら強いつながりを実感することができるのです。
Pelotonがユーザーに提供している価値が「在宅フィットネス」であれば、バイクがあれば事足ります。Pelotonでなくても良いでしょう。
しかし、Pelotonが作る「熱狂的なコミュニティこそ価値である」と考えるといかがでしょうか。Pelotonの人気の秘密も、朧げながら見えてくるはずです。
Pelotonが解決する課題
フィットネスに代表されるトレーニングは元来、孤独なものです。
ジムに行って友達ができることはどちらかと言えば稀で、実際はエアロバイクに据え付けられた小さな画面と睨めっこしながら、一人で黙々とバイクを漕ぐことになります。
その点、パーソナルトレーニングやb-monster(ビーモンスター)に代表されるインストラクターとの距離が近い新しいフィットネスの形式は、孤独を和らげたとも言えます。しかし、そもそも特定の場所に通う時間がない人もいるのが実情です。
そう考えると家でフィットネスを行うのが最適な気がしますが、孤独の問題は解消されませんし、何より継続に課題があります。(自分との約束は守れないものです)
Pelotonはこのような堂々巡りの課題をうまく解決に導いています。Pelotonはトレーニングをしたいけど時間がないし一人じゃ続かない人に、コミュニティという名の居場所を用意したのです。
人はコミュニティがあることで孤独を和らげることができ、一人じゃないと思うから継続することができるのです。
「宗教に代わるものをPelotonで作る」
「Pelotonはコミュニティを作った」と言いましたが、CEOのJohn Foley(ジョン・フォーリー)氏に言わせれば別の表現が適切なようです。
John Foley氏はプレゼンテーションで、「日曜の朝に教会に行くような体験が、未だに私たちには必要だと信じている」といった発言をしています。つまり彼は「宗教に代わるものをPelotonで作る」と宣言しているのです。
「人種のサラダボウル」と表現されるアメリカにおいて、宗教は地域の人々をつなぐ強い装置として機能していました。John Foley氏が作ろうとしているのは、ただのエアロバイクでもフィットネス体験でもなく、アメリカの心をつなぐ象徴、宗教なのです。
大風呂敷を広げたともとれますが、うまい喩えでもあります。
フィットネスは習慣にすることが肝心ですし、Pelotonに継続的に参加することでインストラクターやユーザー同士の深いつながりを感じることができます。
「日曜に教会に行く」が「Pelotonにログインする」に代わるかは未知ですが、印象的な表現であることに間違いはありません。
200億円を超える膨大な赤字
Pelotonは全てが順調そうに見えますが、実はまだ赤字企業です。
2019年度(2018年7月〜2019年6月)は売上9億1500万ドル(約985億円)に対して、1億9560万ドル(約210億円)という膨大な赤字を出しています。※
Pelotonのビジネスモデルに着目すると、ハードウェアを先行で売って月額でサービス料をもらう、二段階のキャッシュポイントが存在することに気づきます。
古くはジレットに代表される「付け替え刃の剃刀」と同じモデルで、ユーザーは大きい買い物(Pelotonの場合はハードウェア)と、それに必要な小さな買い物(月額のコンテンツ)をすることで、継続的にお金を払うことになります。
この表現だとPelotonが必要以上に儲かっている印象を与えますが、ユーザーはハードウェアの支払いを分割ですることができるので、Pelotonのキャッシュフローは思ったより良いとは言えません。
現在、想定外のコロナ禍によって逆に需要増のPelotonですが、まだ先行きはわからない状況です。今後もしばらくは会員を伸ばすために投資が続くのではないでしょうか。
※Forbs Japanを参照。2020年5月25日時点のレート「1ドル107円」で計算。
Pelotonの日本進出と浮かぶ疑問
最後にPelotonの日本進出についてもリサーチしましたが、目立った情報はなく、現時点では未定のようです。
新しいサービスに飛びつくのは感度の高い若者ですが、日本で家の中にエアロバイクを置ける人が果たしてどれだけいるのか疑問が浮かびます。それにJohn Foley氏が言う「宗教の代わりを作る」も、日本人に対しては異なる文脈がないと響かないでしょう。
ただ巨額の赤字を出しながらも、ここまで快進撃を見せるPelotonのこと。アメリカ以外の国でも展開することは当然考えているはずです。
ecforce blog編集部ではPelotonの今後の動向に引き続き注目していきます。
【最後に】
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<参考記事>
【本日上場】アップル、テスラの「次」。爆進ペロトンのすべて(NewsPicks)
Appleを超えるブランド Peloton / 現代の聖職者はエアロバイクに乗る(Yasuhiro Sasaki−Medium)
フィットネス界のAppleと囃された新興企業の今(東洋経済)
自宅フィットネス増加でPelotonのQ3の決算報告は売上も会員も大幅増(TechCrunch)
米国最新フィットネススタートアップ3選。キーワードは「自宅」(ビートラックス (btrax) : freshtrax ブログ)
※2:ecforce導入クライアント38社の1年間の平均データ / 集計期間 2021年7月と2022年7月の対比
※3:事業撤退を除いたデータ / 集計期間 2022年3月~2022年8月