この記事でわかること
サブスクリプションの本質とは何でしょうか。
subscription(サブスクリプション)は、もともと雑誌の定期購読を意味した言葉です。それが転じて、月額利用料を支払うことでサービスを享受するモデルを指すようになりました。有名なものだと、NetflixやAmazonプライムがサブスクリプションを採用しています。
D2Cが注目される背景の一つとして、サブスクリプションに対する人々の価値観の変化を挙げたように、モノを販売するD2Cでも避けて通れないトピックです。
本稿ではカミソリのD2Cブランド『Dollar Shave Club(ダラーシェイブクラブ)』を5つの視点で読み解くことで、サブスクリプションの本質に迫ってみたいと思います。
参考:6つのD2C国内事例。ブランド成長のキーワードは「モノづくり×パーソナライズ」? / 5つのD2C海外事例。若い世代が求める究極にユニークな顧客体験とは?
思わず見てしまうDollar Shave Clubのバズ動画
Dollar Shave Clubの話題を始める上で、まずお見せしたいのがこの動画です。Dollar Shave ClubのCEO、Michael Dubin(マイケル・デュビン)氏が、数名の演者とともにほぼ独演しています。
再生回数は2020年5月現在で、2,600万回を超えています。2012年に作られた動画なので、今ほどYouTubeの視聴者もいなかったでしょう。その状況下でバズを起こし、Inc.の記事によると2日で定期購入者が12,000件になったというから驚きです。
実は筆者もすでに何度も動画を見ているのですが、「見ている」というより「見てしまっている」と言った方が良いかもしれません。小気味の良いテンポと何度か見るとわかる小さなギミックが面白く、自然とDollar Shave Clubが好きになってしまう秀逸な動画です。
しかし、ただコンテンツが面白いだけではバズは起こりませんでした。Michael Dubin氏はあらかじめ影響力のあるメディアやブロガーに声をかけて、動画のリリース時に広く拡散される経路を作っていました。用意周到な仕掛けがあったのです。
しかし、制作費は数十万円と言われています。何事もお金をかければ良いものが作れるわけではないことが、よくわかります。
Dollar Shave ClubはD2Cのお手本のような事例
Dollar Shave Clubが目をつけたのは、巨大企業が古くからの方法で寡占している領域でした。その領域とはカミソリ業界で、巨大企業とはつまりGillette(ジレット)です。
マットレスのCasper(キャスパー)もそうでしたが、業界に新陳代謝が行われずに寡占が起こると、販売価格が不当に吊り上がり、ユーザーは気づかぬうちに高い買い物をすることになります。
Michael Dubin氏の動画のメッセージは実にその点を上手に、かつユーモアを忘れず指摘するものでした。
名前こそ出ていませんが、カミソリに必要以上の機能をつけてテニスプレイヤーに多額のフィーを払い、不当に販売価格を上げているブランドとくれば誰もがGilletteを想像するはずです。
出典:DollarShaveClub.com - Our Blades Are F***ing Great
そして最後の「Party is on.(パーティーは始まっているぜ)」。ユーザーに対して「お前たちは間違ったものを買っている。俺たちの側につかないか?(一緒に踊らないか?)」といったメッセージを暗に込めて、一気にDollar Shave Clubに引き込みます。
実はDollar Shave ClubのスタイルはD2Cの王道です。顧客と直接的にコミュニケーションをとることでマーケティング費用を抑え、余計な機能を削ぐことで商品原価を圧縮し、ユーザーに安価で同等の(少なくとも継続的な利用に耐えうる)クオリティのプロダクトを提供しています。
「ものが良くて、安い」というわかりやすいメッセージと、巨大ブランドという仮想敵に立ち向かうストーリーでユーザーの心を捉える、D2Cのお手本のような事例だと言えます。
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サブスクリプションの本質とは
Michael Dubin氏を動画がバズった人、という認識で終えてはなりません。動画の成功はその一端にしかすぎず、Dollar Shave Clubが採用するサブスクリプションモデルに対して、このような含蓄のある発言をしています。
「サブスクリプションを最大限増やすことが究極の目標だと主張するつもりはない。我々の目標は、男性の心や身体のケアを手助けして、個人としてベストな状態に導くことだ。多くの会社がサブスクリプションという概念にとらわれ過ぎている。これは彼らが、利益が確実に続くという概念を愛しているからだ。陳腐に聞こえるかも知れないが、究極的には「サブスクリプションを実施することで顧客の体験を向上できているか?」を、常に心がけなければならない。」
出典:「サブスクリプションの概念に、企業は囚われ過ぎている」:ダラーシェーブクラブのマイケル・デュビンCEO(DIGIDAY)
この発言からも分かる通り、サブスクリプションは事業者の都合であってはなりません。
あくまでユーザーの利便性を考えた結果、サブスクリプションという選択肢が最善であることが自明であり、なるべくしてなる必要があります。
例えばカミソリのような消費財は、定期的な注文が前提です。
雑誌や、Netflixに代表されるコンテンツもそうですが、ユーザーが毎月いちいち注文する手間が省けるようにと、ユーザーの体験を向上するために用意するのが、サブスクリプションの本質ではないでしょうか。
忘れてはならないHarry's(ハリーズ)の存在
カミソリのD2CといえばDollar Shave Clubと言いたいところですが、Harry's(ハリーズ)の存在も忘れてはなりません。
同じサブスクリプションモデルを採用しているので、ビジネスモデルは近いものがあります。しかし価格は若干Harry'sの方が高く、その分ブランディングやプロダクトクオリティに余分にお金を使っている印象があります。
参考:Harry'sが店舗を構えた狙いとは?5つのTIPSで「世界観を作る」重要性を考える
Dollar Shave Clubの創業は2011年1月で、Harry'sは2012年7月なので、Harry'sが後を追うように事業をはじめました。
D2Cブランドは単独で市場をdisrupt(破壊)するよりも、追随する複数のブランドと相乗効果を生み、人々の耳目を集めることで業界を変えるインパクトをより大きくします。
カミソリ業界のdisruptといった文脈で語られることが多いDollar Shave Clubですが、Harry'sの存在があったからこそ一層の注目を集めた点は忘れてはなりません。
Unilever(ユニリーバ)との融合
Dollar Shave Clubは2016年に10億ドルでUnilever(ユニリーバ)の傘下に入りました。なんとDollar Shave Club設立から5年のことです。
Gilletteに立ち向かうはずが、同じく巨大企業のUnileverに買収されたのか、と皮肉を言う人もいるかもしれません。しかしDollar Shave Clubは独立性を保ったまま、様々な施策を展開しています。
例えば2018年には空港に自動販売機を展開しています。あるいはカミソリ以外にも、ウェットティッシュや石鹸など、カミソリ以外の消費財も販売するようになりました。
https://www.dollarshaveclub.com/product/one-wipe-charlies
https://www.dollarshaveclub.com/product/awakening-body-bars
このアップセルにどれほどの効果があるかはわかりませんが、Unileverとの相乗効果で、Dollar Shave Clubで培ったD2Cのナレッジを横展開することはできているようです。
そういう意味では、Dollar Shave Clubは小資本のD2Cブランドが巨大企業とうまく融合した先駆的な事例だと言えます。その点も含め、今後の動向からも目が離せません。
【最後に】
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<参考記事>
How Dollar Shave Club Rode a Viral Video to Sales Success(Inc.)
Dollar Shave Club plans vending machines in high-traffic areas(RETAIL DIVE)
「サブスクリプションの概念に、企業は囚われ過ぎている」:ダラーシェーブクラブのマイケル・デュビンCEO(DIGIDAY)
カミソリ革命--Dollar Shave Clubの挑戦(ZDNet Japan)
D2Cの戦い方の正解は1つじゃない。DSC vs Harry's(haztr | snaq me hattori − note)
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